農事総論

巻之一「農事総論」(要旨・抄訳)

宮崎安貞は、もとは安芸の国広島の武士の家に生まれ、筑前福岡の黒田家に仕えた。しかし、三十歳のころに役目を辞して、筑前の女原村に移り住み、自ら鍬を取って田畑を耕した。それから四十年近く、村人とともに土にまみれ、作物を育て、工夫を重ねた。その経験を集大成したのが『農業全書』である。

巻之一「農事総論」で、安貞はまず農業の心構えを説く。その要旨は次のとおりである。

農業は、国の根本である。人が生きていくための食べ物も着る物も、すべて田畑から生まれる。だから、農業に励むことは、天下の人々を養う尊い仕事である。

農業で大切なのは、まず「時」を知ることである。種をまく時、苗を植える時、刈り取る時を一日でも誤れば、実りは大きく変わる。天の時をよく見きわめなければならない。

次に大切なのは、「地」を知ることである。土には、肥えた土、やせた土、湿った土、乾いた土があり、それぞれに合った作物がある。土の性質を見きわめて、ふさわしい作物を植えなければならない。

そして最も大切なのは、「人」の力である。どれほどよい土地でも、手入れを怠れば荒れ果てる。深く耕し、よく肥やしを施し、草を取り、水を加減する。農民の勤勉こそが、豊かな実りを生むのである。

安貞は、こうした心得に続けて、土の耕し方、肥料の作り方と施し方、種の選び方、水の引き方などを、具体的に記していく。机の上の学問ではなく、自らの手で確かめたことを書いたところに、この書の値打ちがある。

女原村(筑前) 安貞が福岡藩を辞して移り住み、自ら鍬を取って農事を試した村。
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