室町時代の中ごろ、安房の国の領主、里見義実は、隣国の安西景連に攻められて、城は囲まれ、食糧も尽きて、落城寸前の危機に陥った。
追い詰められた義実は、飼い犬の八房に向かって、戯れに言った。「もしおまえが、敵の大将、安西景連の首を取ってきたならば、娘の伏姫を妻として与えよう」。
すると、その夜、八房は、ひそかに城を抜け出し、敵陣に忍び込んで、本当に景連の首をくわえて帰ってきた。大将を失った安西の軍は総崩れとなり、里見家は救われた。
八房は、約束どおり伏姫を求めた。義実は、犬に娘を与えることなどできないと、八房を殺そうとしたが、伏姫は、「君主の言葉に、偽りがあってはなりません」と言って、自ら八房に従い、安房の国の富山の奥深くへと入っていった。
伏姫は、山の洞窟で、八房と共に暮らしながら、ひたすら法華経を読誦して過ごした。八房は、伏姫の読経に心を和らげ、決して伏姫に触れようとはしなかった。
ところが、一年余りたったある日、伏姫は、自分が身ごもっていることに気づいた。八房の気を受けて、懐妊したのである。そこへ、伏姫の許嫁であった金碗大輔が、姫を救い出そうと山に入ってきて、八房を鉄砲で撃ち殺した。しかし、その弾は、伏姫にも当たってしまった。
伏姫は、自分の潔白を証明するために、短刀で自らの腹を切った。すると、傷口から白い気が立ち上り、姫が身につけていた数珠を包み込んだ。数珠の中の、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字が浮かんだ八つの大きな玉が、光を放って空に舞い上がり、八方へと飛び散っていった。
この八つの玉を持って生まれた八人の若者たちが、「八犬士」である。金碗大輔は、出家して「ゝ大法師」と名乗り、八犬士を探し求める旅に出た。