これも今は昔、右の頬に大きな瘤のある老人がいた。大きさは大きな柑子ほどである。人付き合いもできないので、薪を取って暮らしていた。
ある日、山へ行ったところ、雨風がひどくて帰れなくなり、山の中で大きな木のうろに入って、目も合わず縮こまっていた。すると、遠くから人の声がして、大勢の者がやって来る。見ると、赤い色の者は青い着物を着て、黒い色の者は赤いふんどしをして、目が一つの者、口のない者など、何とも言いようのない者たちが百人ほど、ひしめき集まって、火を明々とともして、老人の隠れている木のうろの前に座り込んだ。鬼どもであった。
鬼たちは酒盛りを始め、上座の鬼の前で、次々に踊ってみせる。老人は、恐ろしさも忘れて、踊りたくてたまらなくなり、「ええい、死んでもかまうものか」と、木のうろから飛び出して、斧を腰に差したまま、見事に舞い踊った。鬼たちは大喜びで、上座の鬼は「これからもこの酒盛りに必ず来い」と言い、約束の証文として、老人の頬の瘤を、少しも痛くなくもぎ取ってしまった。
老人の隣に、左の頬に大きな瘤のある老人がいた。瘤がなくなったのをうらやんで、わけを聞くと、自分も同じようにして取ってもらおうと、あの木のうろに入って待っていた。鬼たちが来て酒盛りを始め、「あの翁は来たか」と言うので、出ていって踊ったが、下手なうえにぎこちなかったので、鬼たちは怒り、「この翁、下手だ。預かっていた瘤を返してやれ」と言って、もう片方の頬に瘤をくっつけてしまった。
こうして隣の老人は、両方の頬に瘤をつけて帰ることになった。人をうらやんではならないということだ。これは、昔話「こぶとりじいさん」のもとになった話である。