第21話和歌集抄訳
巻五「梅花の歌三十二首」序・822(大伴旅人)
【序】
天平二年正月十三日、大宰帥(大伴旅人)の邸宅に集まって宴会を開いた。
ときは、初春のよき月で、空気は澄んで清らかに、風はやわらかくなごんでいる。梅は鏡の前で装う女性の白粉のように白く咲き、蘭は身に帯びた匂い袋のように香っている。そればかりではない。明け方の峰には雲がかかり、松は薄絹のような雲をまとって傘をさしかけたようであり、夕べの山の頂には霧がたちこめ、鳥は霧の帳に閉じこめられて林に迷っている。庭には今年生まれた蝶が舞い、空には去年の雁が帰っていく。
そこで、天を屋根とし地を敷物として、膝を寄せ合い杯を酌み交わす。一座の者はみな言葉を忘れるほどうちとけ、外の世界に向かって心を開く。さっぱりとして自由にふるまい、愉快に満ち足りている。もし文筆によらなければ、どうしてこの心を述べ尽くせようか。中国にも落梅を詠んだ詩がある。昔も今も変わりはない。さあ、庭の梅を題にして、ひとまず短い歌を詠もうではないか。
【主人(大伴旅人)の歌】
我が家の庭に梅の花が散る。はるかな天から雪が流れてくるのだろうか。
令和の元号は、この序の「初春の令月にして、気淑く風和ぎ」から採られた。日本の古典から元号が採られたのは初めてのことである。九州の役人たちが集ったこの宴では、三十二人がそれぞれ梅の歌を詠み、中国渡来の花だった梅の美しさを、日本の歌として表現しようとした。