第27話説話抄訳・要確認
上巻第三「雷の憙を得て、生ましむる子の強き力在る縁」
敏達天皇の御代のこと。尾張国阿育知郡片蕝の里に、一人の農夫がいた。田を作って水を引いていたとき、小雨が降ってきたので、木の下に隠れ、金属の杖をついて立っていた。
そのとき雷が鳴り、農夫の前に落ちてきた。雷は小さな子どもの姿になった。農夫が杖で打とうとすると、雷は言った。「どうか私を殺さないでください。ご恩は必ずお返しします」。
「何を返してくれるのか」と聞くと、雷は、「あなたに子を授けて、恩に報いましょう。どうか楠で水槽を作り、中に水を入れて、竹の葉を浮かべてください」と言った。農夫が言われたとおりにすると、雷は霧を立てて天へと昇っていった。
やがて生まれた子は、頭に蛇が二巻き巻きつき、その頭と尾が後ろに垂れていた。子は十歳あまりになると、たいへんな力持ちになった。都で力自慢の王と力比べをして、打ち負かしたほどである。
その後、子は元興寺の童子(寺の雑用をする少年)となった。そのころ、寺の鐘つき堂では、毎晩のように人が死んでいた。童子は「私が鬼を捕らえて、この災いを止めましょう」と申し出た。
童子は、鐘つき堂の四隅に灯りを置き、四人の者に、「私が鬼をつかんだら、灯りの覆いを一斉に取り払ってください」と言い含めた。夜中近く、鬼がやって来たが、童子に気づいて退いた。明け方近く、鬼はまたやって来た。童子はすかさず鬼の髪をつかんで、力いっぱい引っぱった。鬼は外へ引き、童子は内へ引く。四人の者は恐ろしさのあまり、覆いを取り払うこともできなかった。
夜が明けるころ、鬼は頭の髪をすっかり引き剥がされて逃げていった。翌朝、血の跡をたどっていくと、以前この寺にいた悪い下男を葬った辻に着いた。鬼はその下男の霊だったのである。鬼の髪は、今も元興寺の宝物として納められている。
のちにこの童子は、寺の田に水を引くのを邪魔されたとき、百人がかりでも動かせない大石を水門に置いて、水を守った。やがて出家して、道場法師と呼ばれた。元興寺の道場法師が大力であったのは、雷の恩返しによって生まれたからだと、人々は語り伝えている。