第68話説話抄訳・要確認
巻十四第七「修行の僧、越中の立山に至りて小き女に会ふ語」
今は昔、越中の国の立山という所は、昔から地獄があると言い伝えられている所である。その地のありさまは、はるかに広い山の谷に、何百という湯が湧き出ている。深い穴から湧き出てくるのである。岩で穴を覆っているのに、湯が荒々しく湧き出して、岩の隙間から噴き上がる。その熱気は、近寄ることもできないほど恐ろしい。また、その原の奥の方に、大きな火の柱がある。常に燃えている。またそこに大きな峰があり、帝釈の岳という。これは帝釈天と冥官が集まって、衆生の善悪を裁く所だと言われている。
さて、近江の国の三井寺の僧で、仏道修行のために諸国の霊験所を巡り歩いていた者が、この立山に参って、地獄の谷を巡っていたところ、人もいない谷の中で、年は二十歳くらいの若い女が現れた。
僧は、これは鬼神かと恐ろしく思ったが、女は泣きながら言った。「私は近江の国蒲生の郡の者です。父母は今もその国に住んでいます。私は前世の罪によって、若くして死んで、この立山の地獄に堕ちて、苦しみを受けています。どうか、この様子を父母に伝えて、私のために法華経を書写し供養してくれるよう頼んでください」。
僧は近江に帰ってその家を訪ね、両親に伝えた。両親は泣いて、法華経を書写して供養した。その後、その娘が夢に現れて、「法華経の力によって地獄の苦しみを離れ、忉利天に生まれ変わりました」と告げた。
日本国の人々は、罪を作って多く立山の地獄に堕ちると言い伝えているということである。立山は、地獄と極楽を合わせ持つ霊山として、中世以降、多くの信仰を集めた。