第151話近世小説抄訳

東海道中膝栗毛

初編(小田原・五右衛門風呂)〜箱根

舞台 箱根(神奈川県)
成立 1802〜1814年 作者 十返舎一九

現代語訳

弥次さんと喜多八は、戸塚、藤沢、平塚と宿場を重ねて、小田原の宿にたどり着いた。

宿屋に入ると、風呂が沸いているという。ところが、この宿の風呂は、上方風の「五右衛門風呂」であった。鉄の釜を直接火にかけて湯を沸かすもので、底に丸い板(底板)が浮かべてある。その板を踏み沈めて入るのが正しい入り方なのだが、江戸の銭湯しか知らない弥次さんは、そんなことは知らない。

弥次さんが、底板を、ただの蓋だと思って取りのけて、湯に足を入れると、釜の底が熱くて、とても立っていられない。「あちち、あちち」。困った弥次さんは、便所の脇にあった下駄を持ってきて、それを履いて湯に入った。これならば熱くない。弥次さんは、得意になって湯につかっていた。

次に喜多八が入ると、弥次さんは、下駄のことは内緒にして、「いい湯だ」と勧めた。喜多八も、足を入れたとたんに飛び上がり、弥次さんが下駄を隠しているのを見つけて、自分も下駄を履いて入った。ところが、喜多八が、湯の中で下駄をがたがたやっているうちに、釜の底を踏み抜いてしまった。湯はこぼれ、宿の主人にさんざん叱られて、釜の修繕代を払わされる羽目になった。

翌朝、二人は、「天下の険」と歌われた箱根の山を越えた。石畳の急な坂道を、息を切らして登っていく。途中の茶屋で名物の甘酒を飲み、峠を越えると、芦ノ湖のほとりに箱根の関所がある。入り鉄砲に出女を厳しく取り締まる関所であるが、男の二人連れは、手形を見せて、無事に通り抜けることができた。

「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」。二人の旅は、まだ始まったばかりである。

地点メモ:関所と山越えの難所。
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