第172話暮らし・民俗抄訳・要確認
『秋山記行』・北越雪譜二編(秋山郷)(要旨)
文政十一年(一八二八年)の秋、鈴木牧之は、越後と信濃の国境にある秘境、秋山郷を訪ねた。秋山郷は、中津川の深い谷に沿って、小さな村々が点在する山里である。険しい山道を幾日もかけて歩かなければ、たどり着くことができない。
秋山郷の人々は、平家の落人の子孫だと言い伝えていた。源平の戦いに敗れた平家の人々が、追っ手を逃れて、この山奥に隠れ住んだというのである。
牧之が見た秋山郷の暮らしは、驚くほど素朴なものであった。家は、柱を地面に直接埋めて立て、屋根も壁も茅で葺いた小さなものであった。田はほとんどなく、人々は、焼畑で粟や稗、蕎麦を作り、山で木の実や山菜を採り、川で魚を捕って暮らしていた。
冬は、深い雪に閉ざされて、外の世界との行き来は途絶えてしまう。人々は、囲炉裏の火を絶やさず、蓄えた食料で冬を越した。
それでも、秋山郷の人々は、正直で、欲がなく、旅人の牧之を温かくもてなした。牧之は、村々を巡り歩き、人々の暮らしぶりや言葉、言い伝えを、挿絵とともに詳しく書き留めた。これが『秋山記行』である。
牧之の記録は、江戸時代の山村の暮らしを伝える、貴重な資料となっている。