床の責道具

巻八「床の責道具」(好色丸の船出)

世之介は六十歳になった。これまで、五十四年にわたって、恋の道を極め尽くしてきた。親から受け継いだ莫大な財産も、ほとんど使い果たしてしまった。

世之介は、自分の生涯を振り返って、こう言った。「思えば、この世で、恋の楽しみを知り尽くしてしまった。もはや、この日本には、見るべきもの、恋すべき女もいなくなった。仏の道に入って来世を願うつもりもない。それならば、ほかの世界へ行ってみよう」。

世之介は、残った財産で、一艘の新しい船を造らせ、「好色丸」と名づけた。船には、恋の道具や、精力をつける薬、さまざまな遊びの道具を山のように積み込んだ。そして、日頃から付き合いのある遊び仲間の男たち七人を誘い、船に乗り込んだ。

目指すのは、女だけが住んでいるという伝説の島、「女護が島」である。天和二年(一六八二年)十月の末、世之介たちを乗せた好色丸は、伊豆の国から、はるか南の海へと漕ぎ出していった。その後、世之介たちがどうなったのか、行方を知る者はいない。

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女護が島は、古くから、南方の海に浮かぶとされた伝説の島で、女性だけが暮らし、南風が吹くと身ごもるという言い伝えがあった。伊豆の八丈島がその島だとする説もあった。

仏教的な救済や、道徳的な教訓で物語を終えることが多かった時代に、西鶴は、主人公を、恋の楽しみを求めて、未知の世界へと船出させた。この結末は、現世の享楽を肯定し、人間の欲望をありのままに描こうとした、西鶴の浮世草子の精神をよく表している。

伊豆(女護島へ) 60歳の世之介が伊豆から好色丸で女護島を目指し消える。
要確認:細部に記憶違いを含むおそれがあります。
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