貧福論

巻之五「貧福論」

陸奥の国の蒲生氏郷の家臣に、岡左内という武士がいた。禄は高く、武勇にも優れていたが、左内は、ほかの武士たちとは違って、倹約を旨とし、財を蓄えることを好んだ。人々は、左内をけちだと言って、あざ笑った。

しかし、左内には、左内なりの考えがあった。左内は、自分の家来の一人が、黄金一枚を大切に蓄えていると聞くと、その家来を呼んで褒めたたえ、さらに十両を与えて、「乱世の武士にとって、黄金は刀にも勝る宝である」と言った。人々は、左内をますます変わり者だと思った。

その夜、左内が寝ていると、枕元に、小さな翁が現れた。左内が「何者だ」と問うと、翁は、「私は、あなたが大切にしている黄金の精霊です。あなたが家来を褒めてくださったのがうれしくて、お礼に参りました」と言った。

左内は、翁と、夜通し語り合った。左内が、「善人が貧しく、悪人が富むことがあるのはなぜか」と問うと、黄金の精霊は答えた。「富とは、仏の説く前世の因縁や、儒者の説く天の道とは関係がない。金銀は、非情の物であり、人の善悪を選ばない。ただ、金銀を大切にし、その使い道をわきまえている者のもとに集まるのだ。いくら善い人でも、金銀を軽んじる者のもとからは去っていく」。

さらに左内は、「今の世で、天下を取るのは誰か」と問うた。精霊は、「徳川殿(家康)が、やがて天下を治め、民は安らかに暮らせるようになるでしょう」と予言した。そして、「堯蓂日杲、百姓帰家」(めでたい草が生え、日は明るく輝き、民は家に帰る)という八字の句を残して、夜明けとともに姿を消した。

『雨月物語』の最後を飾るこの話には、幽霊も妖怪も登場しない。怪異譚の結びとして、泰平の世の到来を寿ぎ、金銭をめぐる町人の世の知恵を語る、異色の一編である。

会津 「貧福論」— 蓄財を好む武士岡左内のもとに黄金の精霊が現れ問答する。
要確認:細部に記憶違いを含むおそれがあります。
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