青頭巾

巻之五「青頭巾」
原文
江月照松風吹 永夜清宵何所為

昔、快庵禅師という徳の高い僧がいた。美濃の国の竜泰寺で夏の修行を終えた後、東北の方へ旅に出て、下野の国の富田という里に着いた。日が暮れたので、ある大きな家に宿を借りようとすると、里の人々は、禅師を見るなり、「山の鬼が来た」と叫んで、逃げ隠れた。

家の主人がわけを話した。「この里の上の山に寺があり、学問に優れた阿闍梨が住んでいました。ところが、阿闍梨は、越の国から連れてきた十二、三歳の稚児を深く愛するようになり、その稚児が病で亡くなると、悲しみのあまり、亡骸を葬ることもせず、肌に肌を合わせて抱き、その肉が腐り爛れていくのを惜しんで、ついに、肉を吸い、骨をなめ尽くしてしまったのです。以来、阿闍梨は鬼となって、夜な夜な里に下りてきては、墓をあばいて死人の肉を喰らうようになりました」。

禅師は、「その僧を救ってやろう」と言って、山寺へと向かった。寺は荒れ果て、仏像も倒れている。禅師が一夜の宿を乞うと、痩せこけた主の僧が現れて、「好きになされよ」と言って、奥へ入っていった。

夜が更けると、僧は、禅師を喰らおうと寺の中を探し回ったが、目の前にいる禅師の姿が見えない。夜明けになって、僧は、禅師がずっとそこに座っていたことに気づき、自らの罪を恥じて、ひれ伏した。

禅師は、自分がかぶっていた青い頭巾を僧の頭にかぶせ、禅の公案である二句を授けた。「江月照らし、松風吹く。永夜清宵何の所為ぞ」(入り江に月が照り、松に風が吹く。この長い清らかな夜は、何のためにあるのか)。「この句の真意が分かるまで、ここで座り続けよ」と言って、禅師は寺を去った。

一年後、禅師が再び寺を訪ねると、荒れ果てた堂の中で、影のように痩せた僧が、青頭巾をかぶって、あの二句をかすかに唱えながら座っていた。禅師が「作麼生、何の所為ぞ」と一喝し、禅杖で頭を打つと、僧の体は、たちまち氷が朝日に溶けるように消え失せて、あとには青頭巾と白骨だけが残った。僧の長い執着は、ここに消え去ったのである。禅師は、この寺の住職となり、寺は曹洞宗の寺として栄えたという。

富田(下野) 「青頭巾」— 愛童の死肉を食らい鬼と化した住職を快庵禅師が救う。
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