須磨を襲った嵐は何日も続き、ついに落雷で源氏の住まいの廊が焼けてしまった。その夜、夢に亡き父の桐壺院が現れて、「なぜこんなみすぼらしい所にいるのか。住吉の神の導きに従って、早く船出してこの浦を去れ」とおっしゃった。
夜が明けると、明石の浦から、前の播磨守で出家した明石の入道が船でやって来た。入道もまた夢のお告げを受けて、源氏を迎えに来たのである。源氏は船に乗り、不思議な追い風に吹かれて、あっという間に明石に着かれた。
明石の浦は、須磨とは違って、人の行き来も多く、入道の邸は海辺にも山手にも趣深く造られていた。入道には一人娘がいて、住吉の神に祈りながら、身分の高い人と結婚させようと、大切に育ててきたのであった。入道は源氏に娘のことをほのめかし、源氏も娘の琴の音や手紙の筆跡の見事さに心を引かれた。
娘(明石の君)は、身分の違いを思って、源氏を拒み続けたが、八月十三日の月の明るい夜、源氏は娘の住む岡辺の家を訪ね、二人は結ばれた。気品があり、もの静かで、都の高貴な女性にも劣らない人であった。
やがて都では、帝が目を患い、太政大臣が亡くなり、弘徽殿の大后も病に伏すなど、不吉なことが続いた。帝は源氏を呼び戻す宣旨を出された。源氏の喜びは大きかったが、身ごもった明石の君を残していくのはつらかった。「このたびは立ち別るとも藻塩焼く煙は同じ方になびかむ」。源氏は再会を約束して、都へ帰っていかれた。明石の君が産む姫君は、のちに中宮となる。