二十一 破目山

北越雪譜 原文
原文現代語訳

魚沼郡(うをぬまこほり)清水(しみづ)村の奥(おく)に山あり、高さ一里あまり、周囲(めぐり)も一里あまり也。山中すべて大小の破隙(われめ)あるを以て山の名とす。山半(やまのなかば)は老樹(らうじゆ)条(えだ)をつらね半(なかば)より上は岩石(がんぜき)畳々(でふ〳〵)として其形(そのかたち)竜躍(りようをどり)虎怒(とらいかる)がごとく奇々怪々(きゝくわい〳〵)言(いふ)べからず。麓(ふもと)の左右に渓川(たにがは)あり合(がつ)して滝(たき)をなす、絶景(ぜつけい)又言(いふ)べからず。旱(ひでり)の時此滝壺(たきつぼ)に雩(あまこひ)すればかならず験(しるし)あり。一年(ひとゝせ)四月の半(なかば)雪の消(きえ)たる頃(ころ)清水村の農夫(のうふ)ら二十人あまり集(あつま)り、熊(くま)を狩(から)んとて此山にのぼり、かの破隙(われめ)の窟(うろ)をなしたる所かならず熊の住処(すみか)ならんと、例(れい)の番椒烟草(たうがらしたばこ)の茎(くき)を薪(たきゞ)に交(まぜ)、窟(うろ)にのぞんで焚(たき)たてしに熊はさらに出(いで)ず、窟(うろ)の深(ふかき)ゆゑに烟(けふり)の奥(おく)に至(いた)らざるならんと次日(つぎのひ)は薪(たきゞ)を増(ま)し山も焼(やけ)よと焚(たき)けるに、熊はいでずして一山の破隙(われめ)こゝかしこより烟(けふり)をいだして雲(くも)の起(おこる)が如(ごと)くなりければ、奇異(きい)のおもひをなし熊を狩(から)ずして空(むな)しく立かへりしと清水村の農夫(のうふ)が語(かた)りぬ。おもふに此山半(なかば)より上は岩を骨(ほね)として肉(にく)の土(つち)薄(うす)く地脉(ちみやく)気を通(つう)じて破隙(われめ)をなすにや、天地妙々の奇工(きこう)思量(はかりしる)べからず。

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