三十三 御機屋

北越雪譜 原文
原文現代語訳

貴重尊用(きちようそんよう)の縮をおるには、家の辺(ほと)りにつもりし雪をもその心して掘(ほり)すて、住居(すまゐ)の内にてなるたけ烟(けふり)の入らぬ明(あか)りもよき一間(ひとま)をよく〳〵清(きよ)め、あたらしき筵(むしろ)をしきならべ四方に注連(しめ)をひきわたし、その中央(ちゆうあう)に機(はた)を建(たつ)る、是(これ)を御機屋(おはたや)と唱(とな)へて神(かみ)の在(います)がごとく畏尊(おそれうやま)ひ、織人(おりて)の外(ほか)他人を入れず、織女(おるをんな)は別火(べつくわ)を食(しよく)し、御機(おはた)にかゝる時は衣服をあらため、塩垢離(しほこり)をとり、盥(てあらひ)漱(くちそゝ)ぎこと〴〵く身(み)を清(きよ)む、日毎(ひごと)にかくのごとし。紅潮(つきのさはり)をいむ事は勿論(もちろん)也。他(た)の娘らなど今日(けふ)は誰(たれ)どのゝ御機屋(おはたや)を拝(をがみ)にまゐるなどやうにいふ也。至極(しごく)上手の女にあらざれば此おはたやを建(たつ)る事なければ、他(た)の婦女(ふぢよ)らがこれを羨(うらやむ)事、比諭(たとへ)ば階下(かいか)にありて昇殿(しようでん)の位(くらゐ)をうらやむがごとし。

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