百十三 白烏

北越雪譜 原文
原文現代語訳

前にもいへる如く雪譜と題(だい)するものに他事をいふは哥にいふ落題(らくだい)なれど、雪はまた末にいふべし、姑(しばら)くおもひいだすにまかす。

○天保三年辰四月、我が住(すむ)塩沢の中町(なかまち)に鍵屋某が家のほとりに喬木(たかきき)あり。此樹(き)に烏(からす)巣(す)をむすび、雛(ひな)梢々(やゝ)頭(かしら)をいだすころ、巣のうちに白き頭(かしら)の鳥を見る。主人怪(あや)しみ人をして是を捕(とら)へしめしに、全身(ぜんしん)は烏(からす)にして白く、觜(くちばし)眼(まなこ)足(あし)は赤き烏(からす)の雛(ひな)なり、人々奇(き)として集(あつま)り観(み)る。主人俄(にはか)に籠を作らせ心を尽(つく)して養(やしな)ひ、やゝ長じて鳴音(なくこゑ)も烏(からす)に異(こと)ならず、我が近隣(きんりん)なれば朝夕これを観(み)たり。奇鳥なれば乞(こ)ふ人も多く、江戸へ出(いだ)して観物(みせもの)にせんなどいひしも有しが、主人をしみてゆるさず。かくて其冬雪中にいたり、山の鼬(いたち)狐など餌(ゑ)に乏(とぼし)く人家にきたりて食をぬすむ事雪中の常なれば、此ものゝ所為(しわざ)にや、籠(かご)はやぶれて白烏(しろからす)は羽(はね)ばかり椽(ゑん)の下にありしときゝし。初編に白熊(しろくま)の事を載(のせ)たるゆゑ、白烏(しろからす)もまたこゝに記(しる)しぬ。

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