前にもいへる如く雪譜と題するものに他事をいふは哥にいふ落題なれど、雪はまた末にいふべし、姑くおもひいだすにまかす。
○天保三年辰四月、我が住塩沢の中町に鍵屋某が家のほとりに喬木あり。此樹に烏巣をむすび、雛梢々頭をいだすころ、巣のうちに白き頭の鳥を見る。主人怪しみ人をして是を捕へしめしに、全身は烏にして白く、觜眼足は赤き烏の雛なり、人々奇として集り観る。主人俄に籠を作らせ心を尽して養ひ、やゝ長じて鳴音も烏に異ならず、我が近隣なれば朝夕これを観たり。奇鳥なれば乞ふ人も多く、江戸へ出して観物にせんなどいひしも有しが、主人をしみてゆるさず。かくて其冬雪中にいたり、山の鼬狐など餌に乏く人家にきたりて食をぬすむ事雪中の常なれば、此ものゝ所為にや、籠はやぶれて白烏は羽ばかり椽の下にありしときゝし。初編に白熊の事を載たるゆゑ、白烏もまたこゝに記しぬ。