十二 青柳の話

怪談 現代語訳
原文現代語訳

文明年間〔一四六九~一四八六年〕に、能登の領主、畠山義統に仕える友忠という若い侍がいた。友忠は越前の生まれだったが、幼いころに小姓として能登の大名の館に引き取られ、その殿様の監督のもとで武士となるべく教育を受けた。成長すると、学問にも武芸にもすぐれていることを示し、ひきつづき殿様の寵愛を受けた。気立てがやさしく、人好きのする物腰で、そのうえたいそう美男子だったので、仲間の侍たちから感心され、たいそう好かれていた。

友忠が二十歳ほどになったとき、畠山義統の縁者で、京都の大大名である細川政元のもとへ、内密の使いとして遣わされることになった。越前を通って旅をするよう命じられていたので、若者は途中で後家の母を訪ねる許しを願い出て、許された。

出発したのは一年でいちばん寒い時期で、強い馬に乗っていたものの、ゆっくり進まざるをえなかった。たどる道は人里のまばらな山地を通っていた。旅の二日目、何時間も馬を進めて疲れはてたころ、予定していた宿場には夜遅くならないと着けないとわかって、友忠は困りはてた。心配するのも無理はなかった――身を切るような寒風とともに大雪が降りだし、馬は疲れきった様子を見せていたのだから。ところがその苦しい折に、友忠は思いがけず、近くの丘の頂に柳の木が生えていて、そこに藁ぶきの家の屋根があるのを見つけた。疲れた馬をやっとのことでその家まで進ませると、風を防ぐために閉めてあった雨戸を大きな音でたたいた。老婆が戸を開け、美しい見知らぬ若者を見ると、気の毒そうに叫んだ。「まあ、おかわいそうに――若いお方がこんなお天気にひとり旅とは……。若さま、どうぞお入りください」

友忠は馬から下り、馬を裏の小屋に引いていってから家に入った。中では老人と娘が、竹の割り木を燃やした火にあたっていた。二人はうやうやしく火のそばへ寄るように勧め、それから老人夫婦は酒を温め、旅人のために食事の支度をしながら、遠慮がちに旅のことなどを尋ねた。そのあいだに、若い娘は屏風の陰に姿を消した。友忠は、娘がたいそう美しいことに驚いていた――身なりはこのうえなくみすぼらしく、長い髪は結いもせずに乱れていたけれども。こんなに美しい娘が、こんなにみじめで寂しい所に住んでいるのを不思議に思った。

老人は友忠に言った。

「お侍さま、次の村は遠く、雪はしきりに降っております。風は身を切るようで、道はひどく悪うございます。ですから、今夜これ以上進まれるのは、おそらく危のうございましょう。このあばら家はお侍さまのお泊まりになるような所ではなく、何のおもてなしもできませんが、今夜はこのむさくるしい屋根の下におとどまりになるほうが、安心かもしれません……。お馬はちゃんとお世話いたします」

友忠はこのへりくだった申し出を受けた――若い娘をもっと見ていられる機会を得て、ひそかに喜びながら。まもなく、粗末ではあるがたっぷりとした食事が前に並べられ、娘が屏風の陰から出てきて酌をした。娘はもう、手織りの粗末ではあるがこざっぱりとした着物に着替え、長い髪もきちんとくしけずって整えていた。娘が身をかがめて盃を満たしたとき、友忠は、娘がこれまでに見たどんな女よりも比べものにならないほど美しいのに気づいて驚嘆した。その一つ一つの動きには、友忠を驚かせるほどの気品があった。ところが年寄りたちは、娘のことを詫びはじめて言った。「お侍さま、うちの娘の青柳は、この山の中でほとんどひとりで育ちましたので、行き届いたお世話は何も心得ておりません。どうか不調法と無作法をお許しください」。友忠は、こんな器量よしの娘に給仕してもらえるのは幸せだと言い返した。友忠は娘から目を離すことができなかった――自分の見とれるまなざしに娘が顔を赤らめるのはわかっていたけれども。そして酒にも料理にも手をつけずにいた。母親が言った。「お侍さま、百姓の食べ物でまことにお粗末ですが、あの身を切るような風でお体が冷えておいででしょうから、少しでも召し上がって、お飲みになってくださいまし」。そこで年寄りたちを喜ばせようと、友忠はできるだけ食べたり飲んだりした。しかし頬を赤らめた娘の魅力は、ますます友忠の心をとらえていった。娘と話をしてみると、その言葉は顔と同じようにやさしかった。山の中で育ったのかもしれない――しかしそれなら、両親はいつか身分の高い人だったことがあるに違いない。娘の話しぶりも身のこなしも、身分ある家の姫君のようだったからである。友忠は突然、心の喜びに誘われて、歌で――それは同時に問いでもあった――娘に呼びかけた。

尋ねつる
花かとてこそ
日を暮らせ
明けぬにおとる
茜さすらん
(人を訪ねてゆく途中で、花と思えるものを見つけたので、ここで日を暮らしている。夜も明けないうちに、どうして茜色がさしているのだろう)

娘は少しもためらわずに、次の歌で答えた。

出づる日の
ほのめく色を
わが袖に
つつまば明日も
君やとまらん
(昇る朝日のほのかな色を、わたしの袖で隠してしまったら、明日の朝もあなたはここにとどまってくださるでしょうか)

それで友忠は、娘が自分の思いを受け入れたことを知った。娘が自分の気持ちを歌にこめたそのたくみさにも劣らず驚き、歌が伝えてくれた確かな答えに喜んだ。この世じゅうを探しても、目の前のこの田舎娘よりも美しく才のある娘に会えるとは思えない、まして妻にすることなどできはしない、と友忠はもう確信していた。そして心の中で、ある声がせきたてるように叫んでいるようだった。「神々がおまえの前に置いてくださった幸運をつかめ」。要するに、友忠は心を奪われてしまったのである――それ以上前置きもせずに、娘を嫁にくれと年寄りたちに頼んだほどに。そして同時に、自分の名と家柄と、能登の殿の家中での身分を明かした。

二人は友忠の前にひれ伏して、ありがたさと驚きの声を何度もあげた。しかし、しばらくためらっている様子だったのち、父親が答えた。

「お侍さま、あなたさまは高い身分のお方で、これからまだまだご出世なさるでしょう。もったいないお申し出でございます――まことに、そのありがたさの深さは、言葉にも尽くせず、はかることもできません。けれども、うちの娘は卑しい生まれの愚かな田舎娘で、しつけも教育も何一つ受けておりませんので、ご身分の高いお侍さまの奥方にすることはふさわしくございません。そのようなことを口にするのさえ、よくないことでございます……。けれども、娘をお気に召し、百姓の不作法をお許しくださり、大変な無礼もお見のがしくださるとのことですから、つまらぬはしためとして喜んで差し上げます。ですから、これからは娘のことは、どうぞ思し召しのままになさってくださいまし」

朝にならないうちに嵐は過ぎ去り、雲一つない東の空から夜が明けた。たとえ青柳の袖が、その夜明けのばら色の茜を恋人の目から隠したとしても、友忠はもうそれ以上ぐずぐずしてはいられなかった。しかし娘と別れる気にもなれなかった。それで旅の支度がすっかりととのうと、友忠は娘の両親にこう言った。

「もうこれほどしていただいたうえに、さらにお願いするのは恩知らずに思われるかもしれませんが、もう一度、娘さんをわたしの妻にくださるようお願いいたします。いまとなっては、娘さんと別れるのはつらいのです。娘さんもわたしについてくる気でいてくれますので、お許しいただければ、このまま連れていくことができます。娘さんをくださるなら、わたしはお二人をいつまでも親として大切にいたします……。それまでのあいだ、どうか心からのおもてなしへの、このささやかなお礼をお受けください」

そう言って、友忠はつつましい主人の前に、金貨の入った財布を置いた。しかし老人は何度も平伏したあとで、その贈り物をそっと押し戻して言った。

「お侍さま、金はわたしどもには何の役にも立ちません。それに、長く寒い旅の途中で、きっとご入り用になるでしょう。ここでは何も買うものはございませんし、使いたいと思っても、わたしどもにはこんな大金を使うすべもございません……。娘のことは、もう差し上げたのですから――娘はあなたさまのものです。ですから、連れていかれるのにわたしどもの許しを求められるには及びません。娘はもう、あなたさまのお供をして、おそばにいることをがまんしていただける限り、あなたさまにお仕えしたいと申しております。あなたさまが娘をもらってくださるとわかって、わたしどもはただもううれしいばかりでございます。どうかわたしどものことは、ご心配なさいませんように。ここでは娘にちゃんとした着物をこしらえてやることもできず、まして嫁入り道具などとても用意できません。それに、わたしどもは年寄りですから、どのみち遠からず娘と別れなければならないのです。ですから、いま娘を連れていってくださるのは、たいそう幸せなことなのでございます」

友忠は年寄りたちに贈り物を受け取らせようとしたが、むだだった。二人がお金のことなどまったく気にかけていないことがわかった。しかし二人が、娘の行く末を本当に友忠の手にゆだねたいと願っていることがわかったので、娘を連れていくことに決めた。そこで娘を馬に乗せ、年寄りたちには、心からの感謝の言葉を何度も述べて、しばしの別れを告げた。

「お侍さま」と父親は答えた。「お礼を申さねばならないのは、あなたさまではなく、わたしどものほうでございます。娘をかわいがってくださることと信じております。娘のことは何の心配もございません」……

〔ここで、日本の原話には話の自然な流れに奇妙な切れ目があって、それから先は妙につじつまが合わなくなっている。友忠の母親のことも、青柳の両親のことも、能登の大名のことも、それ以上は何も語られない。明らかに作者はここで仕事に飽きてしまい、たいそう雑に物語を驚くべき結末へと急がせたのである。わたしにはその欠けたところを補うことも、構成の欠点を直すこともできない。しかし、いくつか説明のための細部を思いきって書き入れなければならない。それがなければ、話の残りがつながらないからである……。友忠は無分別にも青柳を京都へ連れていき、そのために災難にあったらしい。しかしその後二人がどこに住んだのかは伝えられていない。〕

……さて、侍は主君の許しなしに妻をめとることは許されていなかった。そして友忠は、使いの役目を果たすまでは、その許しを得られる見込みはなかった。そういう事情のもとでは、青柳の美しさが危険な注目を引き、青柳を自分から奪い去る手立てがたくらまれるのではないかと恐れるのも無理はなかった。それで京都では、友忠は青柳を好奇の目から隠しておこうとした。ところがある日、細川公の家来の一人が青柳を見かけ、友忠との関係を探り出して、そのことを大名に知らせた。すると大名――美しい顔に目のない若い殿様――は、娘を屋敷に連れてくるように命じ、青柳は有無を言わさず、すぐさまそこへ連れていかれた。

友忠は言いようもなく悲しんだ。しかし自分にはどうすることもできないとわかっていた。自分は遠い国の大名に仕える一介の使いにすぎず、さしあたっては、はるかに力のある大名の意のままであり、その大名の望みに異を唱えることなどできないのだった。そのうえ友忠は、自分が愚かなことをしたこと――武家の掟が禁じるひそかな縁を結んで、自ら不幸を招いてしまったことを知っていた。いまやただ一つの望み――はかない望みがあるだけだった。それは、青柳が逃げ出して自分と一緒に逃げてくれること、そしてそうする気になってくれることだった。長いあいだ考えた末、友忠は青柳に手紙を送ってみようと決心した。もちろん、それは危険な試みだった。青柳に送る書きものは、どんなものでも大名の手に渡るかもしれない。そして屋敷に住む者に恋文を送るのは、許されざる罪であった。しかし友忠は危険を冒す決心をした。そして漢詩の形で手紙をつくり、それを青柳に届けてもらおうとした。その詩はわずか二十八字で書かれていた。しかし友忠はその二十八字で、自分の情熱の深さのすべてを表し、失ったものの苦しみのすべてをほのめかそうとしたのである。

公子王孫後塵を逐ふ
緑珠涙を垂れて羅巾を湿す
侯門ひとたび入りて深きこと海のごとし
これより蕭郎はこれ路人
(若い貴公子が、美しい娘のあとをぴたりと追う。娘は涙を流して、薄絹の袖をぬらしている。けれども、身分の高い殿がひとたび娘を見そめてしまえば、その屋敷の奥は海のように深い。こうして取り残され、道ゆく他人となってさまようのは、わたしひとりだけなのだ)

この詩を送った翌日の夕方、友忠は細川公の前に出るよう呼び出された。若者は、すぐに秘密がもれたのだと思った。もし手紙が大名の目にふれたのなら、最も重い罰をまぬがれる望みはない。「殿はわたしに死を命じるだろう」と友忠は思った。「だが青柳が戻ってこないのなら、生きていたいとは思わない。それに、死罪を申しわたされたら、せめて細川を討ち果たそうとすることはできる」。友忠は刀を帯にさして、急いで屋敷へ向かった。

謁見の間に入ると、細川公が上段の間に座り、烏帽子と礼服をつけた身分の高い侍たちに囲まれているのが見えた。みな石像のように黙りこくっていた。友忠が礼をしようと進み出るあいだ、その静けさは嵐の前のしじまのように、不吉で重苦しく思われた。ところが細川は突然上段の間から下りてきて、若者の腕をとりながら、あの詩の言葉をくりかえしはじめた。「公子王孫後塵を逐ふ」……そして友忠が見上げると、殿様の目には情け深い涙が浮かんでいた。

それから細川は言った。

「おまえたちがそれほどまでに愛し合っているのだから、わしの縁者の能登の殿に代わって、わしの一存でおまえたちの婚礼を許すことにした。これから、わしの前でおまえたちの祝言をあげよう。客はそろい、引き出物も用意してある」

殿様の合図で、奥の間を隠していた襖が開けられた。友忠が見ると、そこには婚礼のために集まった多くの家中の重臣たちがいて、青柳が花嫁の装いで友忠を待っていた……。こうして青柳は友忠のもとへ返された。婚礼はにぎやかで華やかなものだった。殿様と家中の人々からは、若い二人に高価な贈り物が贈られた。

その婚礼のあと、五年のあいだ、友忠と青柳は幸せに暮らした。ところがある朝、青柳は夫と家のことについて話しているときに、突然大きな苦痛の叫び声をあげ、それからすっかり青ざめて動かなくなった。しばらくして、青柳は弱々しい声で言った。「こんなはしたない声をあげてしまって、お許しください――でも、あまりに急に痛みがきたものですから……。あなた、わたしたちが結ばれたのは、前の世の何かの因縁によるものに違いありません。そしてその幸せな因縁は、これから先の世でも、一度ならずわたしたちをまた結び合わせてくれると思います。けれども、わたしたちのこの世での縁は、もう尽きてしまいました――わたしたちは別れようとしているのです。どうかお願いです、わたしのために念仏を唱えてください――わたしは死んでいくのですから」

「ああ、なんというおかしな、とりとめのないことを」と、夫は驚いて叫んだ。「おまえはちょっと具合が悪いだけだよ……。しばらく横になって休んでいなさい。そうすれば病気も治るだろう」……

「いいえ、いいえ」と青柳は答えた。「わたしは死んでいくのです――思いこみではありません――わかっているのです……。それに、あなた、もうこれ以上本当のことを隠しておく必要もありません。わたしは人間ではないのです。木の魂がわたしの魂――木の心がわたしの心――柳の樹液がわたしの命なのです。そしていま、このむごい時に、誰かがわたしの木を切り倒しているのです――だからわたしは死ななければならないのです……。もう泣く力さえありません――早く、早く、わたしのために念仏を……早く……。ああ……」

もう一度苦痛の叫び声をあげると、青柳はその美しい顔をそむけ、袖の陰に顔を隠そうとした。しかしほとんど同時に、その姿全体が、このうえなく不思議なふうにくずおれて、下へ、下へ、下へと沈んでいき――床と同じ高さになった。友忠は抱きとめようと飛びついた――しかし、抱きとめるものは何もなかった。畳の上には、その美しい人の抜けがらの着物と、髪にさしていた飾りだけが残っていた。体はもうなくなっていた……。

友忠は頭を剃り、仏門に入って、行脚の僧となった。国じゅうを旅して歩き、訪れた霊場で青柳の魂のために祈りをささげた。巡礼の途中、越前に着くと、友忠は愛する人の両親の家を訪ねた。ところが、二人の家があった山あいの寂しい場所に着いてみると、家はなくなっていた。家の建っていた場所を示すものさえ何もなかった――ただ、柳の切り株が三つあるばかりだった。二本は老木、一本は若木で、友忠が着くずっと前に切り倒されていた。

その柳の切り株のかたわらに、友忠はいろいろな経文を刻んだ供養の墓を建てた。そしてそこで、青柳とその両親の霊のために、多くの法要を営んだ。

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