書寫の上人は、法華讀誦の功積りて、六根淨にかなへる人なりけり。旅の假屋に立ち入られけるに、豆の殻を焚きて豆を煑ける音の、つぶ〳〵と鳴るを聞きたまひければ、「疎からぬ己等しも、うらめしく我をば煑て、辛き目を見するものかな。」といひけり。焚かるゝ豆がらのはら〳〵と鳴る音は、「わが心よりする事かは。燒かるゝはいかばかり堪へがたけれども、力なきことなり。かくな恨み給ひそ。」とぞ聞えける。
六十九 書寫の上人は
徒然草 原文
原文現代語訳
書寫の上人は、法華讀誦の功積りて、六根淨にかなへる人なりけり。旅の假屋に立ち入られけるに、豆の殻を焚きて豆を煑ける音の、つぶ〳〵と鳴るを聞きたまひければ、「疎からぬ己等しも、うらめしく我をば煑て、辛き目を見するものかな。」といひけり。焚かるゝ豆がらのはら〳〵と鳴る音は、「わが心よりする事かは。燒かるゝはいかばかり堪へがたけれども、力なきことなり。かくな恨み給ひそ。」とぞ聞えける。