第50話随筆抄訳
第一段「春はあけぼの」/第二八〇段「香炉峰の雪」
春は明け方がよい。だんだんと白んでいく山ぎわの空が、少し明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいているのがよい。
夏は夜がよい。月の出ているころは言うまでもない。闇夜もやはり、蛍がたくさん飛び交っているのがよい。また、ほんの一つ二つ、ほのかに光って飛んでいくのも趣がある。雨など降るのも趣がある。
秋は夕暮れがよい。夕日が差して山の端にとても近くなったころに、烏がねぐらへ帰ろうとして、三羽四羽、二羽三羽と急いで飛んでいくのまでしみじみとした趣がある。まして雁などが列をつくって、とても小さく見えるのは、たいそう趣深い。日が沈んでしまって、風の音、虫の音などが聞こえるのは、また言いようもない。
冬は早朝がよい。雪が降っているのは言うまでもない。霜がたいそう白いのも、またそうでなくても、とても寒いときに、火などを急いでおこして、炭を持って廊下を渡っていくのも、たいそう冬の朝にふさわしい。昼になって寒さがゆるんでくると、火桶の火も白い灰ばかりになって、みっともない。
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雪がたいそう高く降り積もった日、いつもと違って格子を下ろしたまま、炭櫃に火をおこして、女房たちが話などして集まっていると、中宮定子さまが「少納言よ、香炉峰の雪はどうかしら」とおっしゃる。私は格子を上げさせて、御簾を高く巻き上げたところ、中宮さまはお笑いになった。白居易の詩「香炉峰の雪は簾をかかげて看る」を踏まえた問いかけに、言葉ではなく行いで答えたのである。人々も「そういう詩句は知っていて、歌などにも詠むけれど、思いつきもしなかった。やはりこの中宮さまにお仕えする人としては、そうあるべきだ」と言った。