第55話物語抄訳

源氏物語

少女巻(六条院の造営)

舞台 六条院(河原院跡)(京都府)
成立 1008年頃 作者 紫式部

現代語訳

太政大臣となった光源氏は、静かな住まいを求めて、六条京極のあたりに、亡き六条御息所の旧邸を含む広大な土地を得て、四町を占める大邸宅を造営された。八月、六条院が完成して、方々がお移りになった。

南東の町は、源氏と紫の上がお住まいになる所である。築山を高くし、池の姿を趣深くととのえ、前庭の植え込みには、五葉の松、紅梅、桜、藤、山吹、岩つつじなど、春の楽しみの木や草をことに多く植えて、秋の植え込みもところどころに混ぜてある。

南西の町は、秋好中宮の里邸で、もとからある築山に、紅葉の色の濃い木々を植え、清らかな泉の水を遠くまで流し、遣水の音がまさるように岩を立て加え、滝を落として、秋の野を広々と造ってある。ちょうど季節なので、盛りに咲き乱れている。嵯峨の大堰のあたりの野山も見劣りするほどである。

北東の町は、花散里のお住まいで、涼しげな泉があって、夏の木陰を主にしてある。前庭には呉竹を植え、下風が涼しく吹くようにし、木高い森のような木々も趣深く、卯の花の垣根を巡らして、昔を思い出させる花橘、撫子、薔薇、くたになどの花を植えてある。馬場殿も造ってあった。

北西の町は、明石の君のお住まいで、北側に倉を並べて、隔ての垣には松の木を茂らせ、雪を楽しむためのしつらえである。冬の初めの朝霜が結ぶ菊の垣根、得意げな柞の林など、深山の木々を移し植えてある。

春・夏・秋・冬の四つの季節を、四つの町に配したこの邸は、光源氏の栄華の頂点を示すものであった。

地点メモ:源氏が四季の町を配して造営した大邸宅。源融の河原院がモデルとされる。
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