第70話説話抄訳・要確認

今昔物語集

巻十四第三「紀伊国道成寺の僧、法花を写して蛇を救ふ語」

舞台 道成寺(和歌山県)
成立 1120年頃 作者 編者未詳

現代語訳

今は昔、熊野に参詣する二人の僧がいた。一人は年老い、一人は若くて顔立ちがたいそう美しかった。二人は紀伊の国牟婁郡で、ある家に宿を借りた。その家の主は若い寡婦であった。

夜が更けると、女は若い僧の寝所にひそかに入ってきて、衣をかけて添い寝し、「旅の方をお泊めしたのは、ひと目見たときからお慕いしたからです。どうか夫になってください」と迫った。僧は驚き、「私は精進して熊野へ参る身です。参詣を済ませた帰りに、必ずお言葉に従いましょう」と、その場をなだめて逃れた。

翌朝、二人は熊野へ発った。女は帰りの日を指折り数えて待っていたが、僧は女を恐れて、別の道を通って帰ってしまった。待ちきれなくなった女が道行く人に尋ねると、「その僧たちなら、もうとうに通り過ぎた」という。女は大いに怒り、家に戻って寝屋にこもったまま、にわかに息絶えた。すると寝屋から長さ五尋ほどの大きな毒蛇が這い出し、僧の後を追って街道を走っていった。

これを見た人から、「後ろから大蛇が来る」と聞いた僧たちは、道成寺に逃げ込んで助けを求めた。寺の僧たちは相談して、若い僧を下ろした釣鐘の中に隠し、門を閉ざした。

大蛇はまもなく寺に着くと、門を越えて入り込み、堂のまわりを巡って、やがて鐘に巻きついた。尾で竜頭を叩き、しばらくのあいだ締め上げていたが、両の目から血の涙を流して、頭をもたげ舌なめずりをしながら、もと来た方へ去っていった。寺の僧たちが近寄って見ると、鐘は大蛇の毒の炎で焼けて、手も触れられぬほど熱い。水をかけて冷まし、鐘を上げてみると、若い僧は焼け失せて、わずかな骨さえ残っていなかった。

その後、老僧の夢に、あの若い僧が蛇の姿で現れ、「私はあの悪女の夫とされて蛇の身となり、苦しみを受けています。どうか法華経の如来寿量品を書写して供養し、二匹の蛇を救ってください」と頼んだ。老僧は寺の僧たちと心を合わせて経を書き写し、法会を営んだ。すると再び夢に二人が晴れやかな顔で現れ、「おかげで蛇の身を離れ、女は忉利天に、私は兜率天に生まれることができました」と告げて、空へ昇っていったという。

この話は、のちに「安珍・清姫」の名で謡曲『道成寺』や歌舞伎『京鹿子娘道成寺』となった。和歌山県日高川町の道成寺では、今も絵巻を用いた「絵とき説法」が行われている。

地点メモ:巻十四第三 — 裏切られた女が大蛇となって僧を追い、鐘ごと焼き殺す(安珍清姫の原話)。
※この話は細部に記憶違いを含むおそれがあります。引用・公開の際は原典と照合してください。
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