第77話説話抄訳
巻七第五「長谷寺参籠の男、利生にあづかる事」(わらしべ長者)
今は昔、父母も主人もなく、妻も子もなく、ただ一人の若い侍がいた。どうにも暮らしの立てようがないので、「観音様、お助けください」と、長谷寺に参籠して、「このまま食べる物もなく死ぬのなら、ここで死にます。何かお示しくださるまでは、ここを出ません」と、うつ伏して祈っていた。
二十一日目の明け方、夢に御帳の中から僧が出てきて、「寺を出るとき、最初に手に触れた物を捨てずに持っていけ」と告げた。男が大門を出るとき、つまずいて転び、起き上がると、手に一本の藁しべを握っていた。
男が藁しべを持って歩いていると、虻が顔の周りをぶんぶんと飛び回るので、捕まえて藁しべの先に結びつけた。それを、長谷寺に参詣に来た身分の高い女の車に乗っていた子どもが欲しがったので、与えると、お礼に大きな蜜柑を三つくれた。
さらに行くと、徒歩で旅をする高貴な女が、喉が渇いて倒れそうになっていたので、蜜柑を差し上げると、お礼に上等な布を三反くれた。次に、立派な馬が急に倒れて死んでしまい、持ち主が困っている所に出会ったので、布一反と馬を取り替えた。男が観音に祈ると、馬は生き返った。
京へ向かう途中、九条のあたりで、旅に出ようとしている家の主人が馬を欲しがったので、馬と引き換えに、田と家を預かることになった。主人はそのまま帰ってこなかったので、男は家の主となり、田から多くの米がとれて、裕福になった。これは長谷観音のご利益であると、語り伝えている。