第105話物語抄訳・要確認
「浦島太郎」
昔、丹後の国に、浦島という者がいた。その息子に浦島太郎という、年のころ二十四、五の男がいた。太郎は、朝夕、海で魚を釣っては、父母を養って暮らしていた。
ある日、太郎が、えじまが磯というところで釣りをしていると、一匹の亀が釣れた。太郎は、「おまえは、ここで命を絶つのはかわいそうだ。鶴は千年、亀は万年というではないか。命あるものは、恩を忘れるものではない」と言って、亀を海に放してやった。
その翌日、太郎が沖に出ると、はるかな海上に一艘の小舟が漂っていて、中には美しい女性が一人乗っていた。女性は、「私は、ある所へ向かう途中、嵐にあって、多くの人が海に投げ出され、この舟だけが流れ着きました。どうか私を本国まで送ってください」と、泣きながら頼んだ。
太郎が哀れに思って舟を漕いでいくと、十日あまりで、女性の故郷にたどり着いた。そこは、銀の築地に囲まれ、金の甍を並べた、言葉にもできないほど立派な御殿であった。女性は、「ここで夫婦になりましょう」と言い、二人は夫婦の契りを結んだ。
この御殿は、四方に四季の景色があった。東の戸を開けると、梅や桜が咲き乱れる春の景色。南を見ると、卯の花が咲き、蝉の声が響く夏の景色。西は、紅葉が色づく秋の景色。北は、雪に覆われた冬の景色であった。
楽しい日々を過ごすうちに、三年がたった。太郎は、故郷の父母のことが気がかりになり、「三十日ほどのお暇をください。父母の様子を見てきたいのです」と言った。女性は泣きながら、「今まで隠していましたが、私は、あなたに命を助けていただいた亀です。その恩返しに、こうして夫婦となったのです。これを形見にお持ちください。ただし、決して開けてはなりません」と言って、美しい箱を渡した。
太郎が故郷に帰ってみると、人の住んでいた跡もなく、野原になっていた。一人の老人に尋ねると、「浦島という人は、七百年も前の人だと聞いている」と言う。太郎は、両親の墓を訪ねて泣き悲しんだ。
太郎は、「決して開けるな」と言われた箱を、ついに開けてしまった。すると、中から紫の雲が三筋立ちのぼり、太郎はたちまち老人になってしまった。そして、太郎は鶴になって、大空へ飛び上がっていった。
その後、浦島太郎は、丹後の国に浦島の明神として現れ、亀とともに夫婦の明神として祀られた。めでたいことである。