第178話説話抄訳・要確認
「おしどり」(Oshidori)
陸奥の国の田村の郷に、尊允という鷹匠で猟師の男が住んでいた。ある日、狩りに出たが一羽の獲物もなく、帰り道の赤沼という沼のほとりで、ひとつがいのおしどりが並んで泳いでいるのを見つけた。おしどりを殺すのはよくないことだとされていたが、腹を空かせていた尊允は、矢を放って雄を射止め、持ち帰って料理した。
その夜、尊允は悲しい夢を見た。美しい女が部屋に入ってきて、枕もとに立ち、激しく泣きだしたのである。その泣き声のあまりの哀れさに、聞いている尊允の胸も張り裂けそうになった。女は叫んだ。「なぜ、あの人を殺したのです。あの人が何の罪を犯したというのですか。赤沼で、私たちはあんなに幸せに暮らしていたのに。あなたは、私まで殺したのです。夫を失った私は、もう生きてはいられません。このことを伝えに来ました」。
そして女は泣きながら、一首の歌を詠んだ。
日暮るれば誘ひしものを赤沼の真菰がくれのひとり寝ぞ憂き
(日が暮れると、いつも一緒に帰ろうと誘い合ったのに、赤沼の真菰の陰で、今はひとり寝るのがつらい)
「あなたにはわからないでしょう。けれど、明日赤沼へ来れば、わかります」。そう言うと、女はまた激しく泣き、立ち去った。
翌朝目覚めた尊允は、夢があまりにもはっきりと心に残っていたので、赤沼へ出かけていった。岸に着くと、雌のおしどりが一羽、ひとりで泳いでいた。おしどりは尊允の姿を見ても逃げず、まっすぐに彼の方へ泳いできて、じっと彼を見つめた。そして、いきなり自分の嘴で自分の体を引き裂き、猟師の目の前で死んでしまった。
尊允は髪を剃り、僧になった。
赤沼は福島県郡山市の田村地方に伝わる地名で、この話はもともと江戸時代の説話集『古今著聞集』の系統を引く古い話である。ハーンは、短い物語の中に、生きものの命と夫婦の情の重さを鮮やかに描き出した。