昔、津の国の難波の里に、おじいさんとおばあさんが住んでいた。おばあさんが四十歳になっても子がないことを悲しみ、二人は住吉の神にお参りして、子を授かるよう祈った。
すると、おばあさんは四十一歳で身ごもり、男の子を産んだ。ところが、その子の背丈は一寸(約三センチ)しかなかったので、「一寸法師」と名づけられた。十二、三歳になっても、背丈は少しも伸びなかった。
おじいさんとおばあさんが、「この子は化け物ではないか。どこかへやってしまいたい」と話しているのを、一寸法師は聞いてしまった。一寸法師は、「それなら都へ上ろう」と決心し、おばあさんから針を一本もらって刀にし、麦わらで鞘を作った。そして、お椀を舟に、箸を櫂にして、川を上り、都へ向かった。
都に着いた一寸法師は、三条の宰相殿の屋敷を訪ね、家来として仕えることになった。宰相殿には、十三歳になる美しい姫君がいた。一寸法師は、姫君を妻にしたいと思い、一計を案じた。
ある夜、一寸法師は、神棚に供えてあった米を、寝ている姫君の口のまわりに塗りつけた。そして、空の茶袋を持って泣きながら、「姫君が、私のお米を取って食べてしまわれました」と訴えた。宰相殿は大いに怒り、姫君を屋敷から追い出してしまった。一寸法師は姫君のお供をして、屋敷を出た。
二人の乗った舟は、風に吹き流されて、不思議な島にたどり着いた。そこへ二匹の鬼が現れ、一匹が一寸法師を一口に飲み込んでしまった。ところが、一寸法師は、鬼の目から飛び出してきた。鬼たちは「これはただ者ではない」と恐れおののいて、打出の小槌や杖などを投げ捨てて逃げていった。
一寸法師が打出の小槌を振って、「背よ伸びろ」と唱えると、たちまち背丈が伸びて、立派な若者になった。さらに小槌を振ると、ご飯や金銀が次々と出てきた。
都に戻った一寸法師の評判は、帝の耳にも届いた。帝に召された一寸法師は、実は身分の高い家の血筋であることがわかり、堀河の少将に取り立てられた。故郷の父母も都に呼び寄せ、姫君と末永く幸せに暮らしたという。これも住吉の神のご利益である。