信濃の国、筑摩郡のあたらしの郷に、物くさ太郎ひじかすという、たいへんな怠け者がいた。家を建てるのも面倒で、四本の竹を立て、むしろをかけただけの小屋に住んでいた。手足はあかで汚れ、着物はぼろぼろ、ノミやシラミだらけであった。
ある日、太郎は、人から餅を五つもらった。四つを食べ、残りの一つを大事にしていたが、うっかり手からこぼれて、道の真ん中まで転がっていってしまった。太郎は、拾いに行くのも面倒で、誰か通りかかったら取ってもらおうと、三日もの間、じっと寝転んで待っていた。
そこへ、この土地の地頭、あたらしの左衛門尉のぶよりが、鷹狩りの帰りに通りかかった。太郎は、「そこのお方、その餅を取ってくださいな」と声をかけた。地頭は、「これほどの怠け者は見たことがない。こんな男がどうやって暮らしているのか」とあきれながらも面白がり、郷の人々に、「この男に、毎日三度の食事と酒を与えて養え」と命じた。
三年ほどたったころ、郷に、都へ長夫(長期間の労役)を一人出すようにとの命令が下った。郷の人々は相談して、「あの物くさ太郎を出そう」と決めた。太郎は、「都は面白いところだと聞く」と、案外すなおに引き受けて、都へ上っていった。