物くさ太郎

「物くさ太郎」(後半)

信濃から都へ上った物くさ太郎は、国元で見せていた怠け癖はどこへやら、まじめに働いた。やがて、約束の期間が終わって国へ帰る日が近づくと、太郎は宿の主人に、「国へ帰る土産に、妻を一人連れて帰りたい」と相談した。主人は冗談半分に、「それなら清水寺へ行って、辻取りをするがよい」と教えた。辻取りとは、道で一人歩きの女を捕まえて妻にすることである。

太郎は清水寺の門前に立ち、参詣の人々を眺めていた。そこへ、身分の高い家に仕える、美しい女房が通りかかった。太郎は、いきなり女房に抱きついた。

女房は困り果て、なんとか逃げようと、謎かけの歌を詠んだり、自分の住まいをなぞなぞで教えたりした。ところが太郎は、見かけによらず歌の心得があり、女房の謎をすべて解いて、女房の住まいを突き止めた。

女房は、太郎の歌の才に感心して、夫婦になることを承知した。屋敷の者たちが、汚れきった太郎を風呂に入れて洗い、身なりを整えさせると、太郎は見違えるような美男子になった。

太郎の歌の才の評判は、やがて帝の耳にも届いた。帝が太郎の素性を調べさせると、太郎は、仁明天皇の皇子である二位の中将が、信濃に流されていたときにもうけた子であることがわかった。

帝は太郎を「信濃の中将」に任じ、甲斐と信濃の二か国を与えた。太郎は妻を伴って信濃のあたらしの郷に帰り、郷の人々を大切にして、百二十歳まで長生きした。のちに太郎は、「おたがの大明神」として祀られたという。

清水寺 「物くさ太郎」— 都で妻を求め、清水寺で見初めた女房を歌問答の末に射止める。
要確認:細部に記憶違いを含むおそれがあります。
← 前物くさ太郎