紀伊の国の三輪が崎に、大宅竹助という網元がいた。その三男の豊雄は、生まれつき心優しく、都風の風流を好み、家業を嫌っていた。
ある秋の日、新宮の神官のもとで学問を学んだ帰り道、にわか雨にあって、漁師の小屋で雨宿りをしていると、そこへ、二十歳にも満たない美しい女が、少女を連れて入ってきた。女は、真女児と名乗った。豊雄は、女に傘を貸してやり、翌日、その傘を返してもらうために、女の家を訪ねることにした。
真女児の家は、たいそう立派な屋敷であった。真女児は、「私は夫を亡くした身です。どうか私を妻にしてください」と言い、宝の太刀を豊雄に贈った。豊雄は、真女児の美しさに心を奪われ、結婚の約束をした。
ところが、その太刀は、熊野権現の宝物殿から盗まれた物であった。豊雄は盗賊の疑いで捕らえられ、役人たちが真女児の屋敷へ行ってみると、そこは荒れ果てた廃屋であった。中に入ると、真女児が一人座っていたが、役人たちが近づくと、雷のような音とともに、その姿はかき消えてしまった。
疑いの晴れた豊雄は、大和の国の姉の家に身を寄せた。ところが、そこへ真女児が訪ねてきた。真女児は涙ながらに弁解し、豊雄はまた心を許してしまう。しかし、吉野へ花見に出かけたとき、当麻の酒人という老翁が真女児の正体を見破った。「これは、年を経た大蛇である」。真女児は、滝へ飛び込んで姿を消した。
紀伊に戻った豊雄は、富子という娘と結婚した。ところが、真女児の霊が富子に取り憑いて、豊雄に恨み言を言った。豊雄は、道成寺の法海和尚に助けを求めた。和尚は、芥子の香がしみ込んだ袈裟を豊雄に渡し、「これを真女児にかぶせよ」と言った。豊雄が袈裟をかぶせると、真女児は、三尺ほどの白い蛇となった。和尚は、蛇を鉄の鉢に封じ込め、道成寺の本堂の前に深く埋めた。これを「蛇が塚」と言い伝えている。