十 沫雪

北越雪譜 原文
原文現代語訳

春の雪は消(きえ)やすきをもつて沫雪(あわゆき)といふ。和漢(わかん)の春雪消(きえ)やすきを詩哥(しいか)の作為(さくい)とす、是(これ)暖国(だんこく)の事也、寒国の雪は冬(ふゆ)を沫雪(あわゆき)ともいふべし。いかんとなれば冬の雪はいかほどつもりても凝凍(こほりかたまる)ことなく、脆弱(やはらか)なる事淤泥(どろ)のごとし。故(かるがゆゑ)に冬の雪中は橇(かんじき)・縋(すかり)を穿(はき)て途(みち)を行(ゆく)。里言(りげん)には雪を漕(こぐ)といふ。水を渉(わた)る状(すがた)に似(に)たるゆゑにや、又深田(ふかた)を行(ゆく)すがたあり。初春(しよしゆん)にいたれば雪悉(こと〴〵)く凍(こほ)りて雪途(ゆきみち)は石を布(しき)たるごとくなれば往来(わうらい)冬よりは易(やす)し。(すべらざるために下駄(げた)の歯(は)にくぎをうちて用ふ)暖国(だんこく)の沫雪(あわゆき)とは気運(きうん)の前後(ぜんご)かくのごとし。

現代語訳で読む →
← 前の項九 雪を掃ふ