十一 雪道

北越雪譜 原文
原文現代語訳

冬の雪は脆(やはらか)なるゆゑ人の蹈固(ふみかため)たる跡(あと)をゆくはやすけれど、往来(ゆきゝ)の旅人(たびゝと)一宿(しゆく)の夜大雪降ばふみかためたる一条(すぢ)の雪道雪に埋(うづま)り途(みち)をうしなふゆゑ、郊原(のはら)にいたりては方位(はうがく)をわかちがたし。此時は里人(さとひと)幾十人を傭(やと)ひ、橇(かんじき)縋(すかり)にて道(みち)を蹈開(ふみひらか)せ跡(あと)に随(したがつ)て行(ゆく)也。此費(ものいり)幾緡(いくさし)の銭を費(つひや)すゆゑ貧(とぼ)しき旅(たび)人は人の道(みち)をひらかすを待(まち)て空(むなし)く時を移(うつす)もあり。健足(けんそく)の飛脚(ひきやく)といへども雪途(みち)を行(ゆく)は一日二三里に過(すぎ)ず。橇(かんじき)にて足(あし)自在(じざい)ならず、雪膝(ひざ)を越(こ)すゆゑ也。これ冬の雪中一ツの艱難(かんなん)なり。春は雪凍(こほり)て銕石(てつせき)のごとくなれば、雪車(そり)(又雪舟(そり)の字をも用ふ)を以て重(おもき)を乗(の)す。里人(りじん)は雪車に物をのせ、おのれものりて雪上を行(ゆく)事舟のごとくす。雪中は牛馬の足立ざるゆゑすべて雪車(そり)を用ふ。春の雪中重(おもき)を負(おは)しむる事牛馬(うしうま)に勝(まさ)る。(雪車の制作(せいさく)別に記す、形大小種々あり大なるを修羅(しゆら)といふ)雪国の便利(べんり)第(だい)一の用具(ようぐ)也。しかれども雪凍りたる時にあらざれば用ひがたし、ゆゑに里人雪舟途(そりみち)と唱(とな)ふ。

現代語訳で読む →
← 前の項十 沫雪