十三 胎内潜

北越雪譜 原文
原文現代語訳

宿場(しゆくば)と唱(となふ)る所(ところ)は家の前(まへ)に庇(ひさし)を長くのばして架(かく)る、大小の人家(じんか)すべてかくのごとし。雪中はさら也、平日も往来(ゆきゝ)とす。これによりて雪中の街(ちまた)は用なきが如くなれば、人家の雪をこゝに積(つむ)。次第(しだい)に重(かさなり)て両側(りやうかは)の家の間(あひだ)に雪の堤(つゝみ)を築(きづき)たるが如(ごと)し。こゝに於て所々(ところ〳〵)に雪の洞(ほら)をひらき、庇(ひさし)より庇に通(かよ)ふ、これを里言(さとことば)に胎内潜(たいないくゞり)といふ、又間夫(まぶ)ともいふ。間夫(まぶ)とは金掘(かねほり)の方言(ことば)なるを借(かり)て用(もち)ふる也。(間夫の本義は妻妾(さいせふ)の奸淫(かんいん)するをいふ)宿外の家の続(つゞか)ざる処は庇(ひさし)なければ、高低(たかびく)をなしたるかの雪の堤(つゝみ)を往来(ゆきゝ)とす。人の足立(あしたて)がたき処あれば一条(でう)の道(みち)を開(ひら)き、春にいたり雪堆(うづだか)き所は壇層(だん〳〵)を作りて通路(つうろ)の便(べん)とす。形(かたち)匣階(はこばしご)のごとし。所(ところ)の者(もの)はこれを登下(のぼりくだり)するに脚(あし)に慣(なれ)て一歩(ひとあし)もあやまつ事なし。他国(たこく)の旅人(たびゝと)などは怖(おそ)る〳〵移歩(あしをはこび)かへつて落(おつ)る者(もの)あり、おつれば雪中に身(み)を埋(うづ)む。視(み)る人はこれを笑(わら)ひ、落(おち)たるものはこれを怒(いか)る。かゝる難所(なんじよ)を作りて他国の旅客(りよかく)を労(わづら)はしむる事求(もとめ)たる所為(しわざ)にあらず。此雪を取除(とりのけん)とするには人力(じんりき)と銭財(せんざい)とを費(つひや)すゆゑ、寸導(せめて)は壇(だん)を作りて途(みち)を開(ひら)く也。そも〳〵初雪より歳を越て雪消(きゆ)るまでの事を繁細(はんさい)に記さば小冊には尽(つく)しがたし、ゆゑに省(はぶき)てしるさゞる事甚多し。

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