糸に作るにも座を定め体を囲位る事績におなじ。縷綸その道具その手術その次第の順、その名に呼物許多種々あり、繁細の事を詳にせんはくだ〳〵しければ言ず。そも〳〵うみはじむるよりおりをはるまでの手作すべて雪中に在、上品に用ふる処の毛よりも細き糸を綴兆舒疾してあつかふ事、雪中に籠り居る天然の湿気を得ざれば為し難し。湿気を失へば糸折る事あり。をれしところ力よわり断る事あり、是故に上品の糸をあつかふ所は強き火気を近付ず、時により織るに後て二月の半にいたり、暖気を得て雪中の湿気薄き時は大なる鉢やうの物に雪を盛て機の前に置、その湿気をかりて織る事もあり。これらの事に付て熟思に、絹を織には蚕の糸ゆゑ阳熱を好、布を織には麻の糸ゆゑ阴冷を好む。さて絹は寒に用ひて温ならしめ、布は暑に用て冷かならしむ。是は天然に阴阳の気運に属する所ならんか。件の如く雪中に糸となし、雪中に織り、雪水に洒ぎ、雪上に曬す。雪ありて縮あり、されば越後縮は雪と人と気力相半して名産の名あり。魚沼郡の雪は縮の親といふべし。蓋し薄雪の地に布の名産あるよしは糸の作りによる事也。越後縮に比べて知るべし。
三十 縷綸
北越雪譜 原文
原文現代語訳