三十七 ほふら

北越雪譜 原文
原文現代語訳

我(わが)塩沢(しほざは)の方言(はうげん)にほふらといふは雪頽(なだれ)に似(に)て非(ひ)なるもの也、十二月の前後(ぜんご)にあるもの也。高山(たかやま)の雪深(ふか)く積(つも)りて凍(こほり)たる上へ猶(なほ)雪ふかく降(ふ)り重(かさな)り、時の気運(きうん)によりていまだこほらで沫々(あわ〳〵)しきが、山の頂(いたゞき)の大木につもりたる雪、風などの為に一塊(ひとかたま)り枝(えだ)よりおちしが山の聳(そびえ)に随(したが)ひて転(まろ)び下(くだ)り、まろびながら雪を丸(まろめ)て次第(しだい)に大をなし、幾万斤(いくまんきん)の重きをなしたるもの幾丈(いくぢやう)の大石を転(まろば)し走(はしらす)がごとく、これが為にあわ〳〵しき雪おしせかれて雪の洪波(つなみ)をなして大木を根こぎになし、大石をもおしおとし人家をもおし潰(つぶ)す事しば〳〵あり。此時はかならず暴風(はやて)雪を吹(ふ)きちらし、凍雲(とううん)空(そら)に布(しき)て白昼(はくちう)も立地(たちどころ)に暗夜(あんや)となる事雪頽(なだれ)におなじ。なだれは前にもいへるごとく、すこしはそのしるしもあればそれとしるめれど、此ほふらはおとづれもなくて落下るゆゑ、不意(ふい)をうたれて逃(にげ)んとすれば軟(やはらか)なる雪深くて走(はし)りがたく、十人にして一人助るは稀(まれ)也。幾十丈の雪人力を以て掘(ほ)ることならざれば、三四月にいたり雪消(きえ)てのち死骸(しがい)を見る事あり。ほふらを処によりて、○をほて○わや○あわ○ははたりともいふ。山家にてはなだれほふらを避(さけ)んため其災(わざはひ)なき地理をはかりて家を作る。ほふらに村などつぶれたる奇談(きだん)としごろ聞(きゝ)たるがあまたあれど、うるさければしるさず。

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