我塩沢の方言にほふらといふは雪頽に似て非なるもの也、十二月の前後にあるもの也。高山の雪深く積りて凍たる上へ猶雪ふかく降り重り、時の気運によりていまだこほらで沫々しきが、山の頂の大木につもりたる雪、風などの為に一塊り枝よりおちしが山の聳に随ひて転び下り、まろびながら雪を丸て次第に大をなし、幾万斤の重きをなしたるもの幾丈の大石を転し走がごとく、これが為にあわ〳〵しき雪おしせかれて雪の洪波をなして大木を根こぎになし、大石をもおしおとし人家をもおし潰す事しば〳〵あり。此時はかならず暴風雪を吹きちらし、凍雲空に布て白昼も立地に暗夜となる事雪頽におなじ。なだれは前にもいへるごとく、すこしはそのしるしもあればそれとしるめれど、此ほふらはおとづれもなくて落下るゆゑ、不意をうたれて逃んとすれば軟なる雪深くて走りがたく、十人にして一人助るは稀也。幾十丈の雪人力を以て掘ることならざれば、三四月にいたり雪消てのち死骸を見る事あり。ほふらを処によりて、○をほて○わや○あわ○ははたりともいふ。山家にてはなだれほふらを避んため其災なき地理をはかりて家を作る。ほふらに村などつぶれたる奇談としごろ聞たるがあまたあれど、うるさければしるさず。
三十七 ほふら
北越雪譜 原文
原文現代語訳