総滝とは新潟の湊より四十余里の川上、千隈川のほとり割野村にちかき所の流にあり。信濃の丹波島より新潟までを流るゝ間に流の滝をなすはこゝのみなり。その総滝とは川はゞはおよそ百間ちかくもあるべきに、大なる岩石竜の臥たるごとく水中にあるゆゑに、おとしくる水これに激して滝をなす也。鮏こゝにいたりて激浪にのぼりかねて猶予ゆゑ、漁師ども仮に柴橋を架わたし、岸にちかき岩の上の雪をほりすてこゝに居てかの掻網をなす。されど命の惜きにやおの〳〵己が腰に縄をつけこれを岩の尖りなどに縛しおく。こゝに往来するには岩に足のかゝるべき所をわづかに作り、岩にとりつきて登り下りをなす。若一あしを過つ時は身を粉に砕きて滝におちいるめり、その危き事いはん方なし。余前年江戸に在し時右の事を先の山東翁にかたりしに、翁曰世路の灘は総滝よりも危からん、世は足もとを見て渡るべきにやとて笑へり。格言なりと耳にとゞまりしが、今偶然おもひいだしたるゆゑしるせり。
五十五 総滝
北越雪譜 原文
原文現代語訳