右の泊り山するは此地にかぎらず外にもする所あり。小出嶋といふあたり、上越後山根の在々にてもするなり。すべて深山にありて事をなすには山ことばといふありてこれをつかふ。忘れて里のことばをつかふ時はかならず山神の祟りありといひつたふ。他国はしらず、その山言語とは、○米を草の実○味噌をつぶら○塩をかへなめ○焼飯をざわう○雑水をぞろ○天気の好をたかゞいゝ○風をそよ○雨も雪もそよがもふといふ。○蓑をやち○笠をてつか○人の死をまがつた又はへねた○男根をさつたち○女陰を熊の穴。此余あまたあり、さのみはとてしるさず。女陰を熊の穴といふをもておもふに、これらのことばは商家の符調といふものにおなじかるべし。かゝることばを山にてつかはざれば山神の祟りたまふといふは信がたけれど、神の㕝は人慮をもてかろ〳〵しく誣べからざる物をや。
六十七 山言語
北越雪譜 原文
原文現代語訳