七十三 雪の正月

北越雪譜 原文
原文現代語訳

初編にもいへる如く我国の雪は鵞毛(がまう)をなすは稀(まれ)なり、大かたは白砂(しらすな)を降(ふら)すが如し。冬の雪はさらに凝凍(こほる)ことなく、春にいたればこほること鉄石(てつせき)のごとし。冬の雪のこほらざるは湿気(しめりけ)なく乾(かわき)たる沙(すな)のごとくなるゆゑなり。是(これ)暖国(だんこく)の雪に異処(ことなるところ)なり。しかれどもこほりてかたくなるは雪解(とけん)とするのはじめなり。春にいたりても年(とし)によりては雪の降(ふる)こと冬にかはらざれども、積(つもる)こと五六尺に過(すぎ)ず。天地に阳気(やうき)有(ある)を以なるべし。されば春の雪は解(とく)るもはやし、しかれども雪のふかき年は春も屋上(やねのうへ)の雪を掘(ほる)ことあり。掘(ほる)とは椈(ぶな)の木にて作りたる木鋤(こすき)にて土(つち)を掘(ほる)ごとくして取捨(とりすつ)るを里言(りげん)に雪を掘といふ、已(すで)に初編にもいへり。かやうにせざれば雪の重(おもき)に屋(いへ)を潰(つぶす)ゆゑなり。されば旧冬(きうとう)の家毎(いへごと)に掘除(ほりのけ)たる雪と春降積(ふりつもり)たる雪と道路(みち)に山をなすこと下にあらはす図(づ)を見てもしるべし。いづれの家にても雪は家よりも高(たかき)ゆゑ、春を迎(むかふ)る時にいたればこゝろよく日光(ひのひかり)を引んために、明(あかし)をとる処の窗(まど)に遮(さへぎ)る雪を他処へ取除(とりのく)るなり。然(しか)るに時としては一夜の間(あひだ)に三四尺の雪に降うづめられて家内薄暗(うすくらく)、心も朦々(まう〳〵)として雑煮(ざふに)を祝(いは)ふことあり。越後はさら也、北国の人はすべて雪の中に正月をするは毎年の事也。かゝる正月は暖国(だんこく)の人に見せたくぞおもはるゝ。

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