七十九 雪中歩行の用具

北越雪譜 原文
原文現代語訳

雪中歩行(ほかう)の具(ぐ)初編に其図(そのづ)を出(いだ)ししが製作(せいさく)を記(しる)さず、ふたゝびその詳(つまびらか)なるを示(しめ)す。

○藁(わら)ひとたけにてあみたつる。はじめはわらのもとを丸けてあみはじめ、末にいたりてわらをまし二筋にわけ折かへし、

○をはりはまん中にて結びとむる。是雪中第一のはきもの也。童もこれをはく也。上品なるはあみはじめに白紙を用ひ、ふむ所にたゝみのおもてを切入る。

○是はうちわらにて作りあむ。常の〓(たび)のまゝ是をはきて雪中に歩行しても、他の坐につく時足をそゝぐにおよばず。あみやうは甚むづかしきものなり、此図は大略をしるす。

○他国には革にて作りたるを見る。泥行(どろみち)には便なるべし。我国の雪中には途(みち)に泥(どろ)ある所なし、ゆゑにはき物はげたの外わらにてつくる。げたに、●駒の爪(つめ)●牛のつめなど、さま〴〵名もあり、男女の用その形もかはれど、さのみはとて図せず。

○ハツハキといふは里俗(りぞく)のとなへなり、すなはち裹脚(はゞき)なり。わらのぬきこあるひは蒲(がま)にても作る。雪中にはかならず用ふ、やまかせぎは常にも用ふ。作りやう図を見て大略を知るべし。やすくいへばわらのきやはんなり。わらは寒をふせぐものゆゑ、雪のはきもの大かたはわらにて作るなり。

○シナ皮とて深山(みやま)にある木の皮にて作る、寸尺は身に応じ作る。大かたはたて二尺三寸はゞ二尺ばかりなり、胸(むね)あてともいふ。前より吹つくる雪をふせぐために用ふ、農業には常にも用ふ。他国にもあるなり。

○シブガラミはあみはじめの方を踵(きびす)へあて、左右のわらを足頭(あしくび)へからみて作るなり。里俗わら屑(くづ)のやはらかなるをシビといふ。このシビにて作り、足にからみはくゆゑに、シビガラミといふべきをシブガラミと訛(なま)りいふなり。

○かんじきは古訓(こくん)なり、里俗(りぞく)かじきといふ。たて一尺二三寸よこ七寸五六分、形(かたち)図(づ)の如くジヤガラといふ木の枝にて作る。鼻は反(そら)してクマイブといふ蔓(つる)又はカヅラといふつるをも用ふ。山漆(やまうるし)の肉付の皮にて巻かたむ。是は前に図したる沓の下にはくもの也、雪にふみこまざるためなり。

○すかりはたて二尺五六寸より三尺余、横一尺二三寸、山竹をたわめて作る。○かじき○すかりの二ツは冬の雪のやはらかなる時ふみこまぬ為に用ふ。はきつけぬ人は一足もあゆみがたし。なれたる人はこれをはきて獣(けもの)を追ふ也。右の外、男女の雪帽子(ばうし)雪下駄(げた)、其余(そのよ)種々雪中歩用(ほよう)の具(ぐ)あれども、薄(はく)雪の国に用ふる物に似(に)たるはこゝに省(はぶ)く。

百樹(もゝき)曰、余(よ)北越に遊びて牧之老人が家に在し時、老人家僕(かぼく)に命(めい)じて雪を漕(こぐ)形状(すがた)を見せらる、京水傍(かたはら)にありて此図を写(うつせ)り。穿物(はくもの)は、○橇(かんじき)○縋(すかり)なり。戯(たはふれ)に穿(はき)てみしが一歩も進(すゝむ)ことあたはず、家僕(かぼく)があゆむは馬を御(ぎよ)するがごとし。

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