八十九 雪中の葬式

北越雪譜 原文
原文現代語訳

吾が国に雪吹(ふゞき)といへるは、猛風(まうふう)不意(ふい)に起(おこ)りて高山平原(かうざんへいげん)の雪を吹散(ふきちら)し、その風四方にふきめぐらして寒雪(かんせつ)百万の箭(や)を飛(とば)すが如く、寸隙(すんげき)の間(あひだ)をも許(ゆる)さずふきいるゆゑ、ましてや往来(ゆきゝ)の人は通身(みうち)雪に射(いら)れて少時(すこしのま)に半身(はんしん)雪(ゆき)に埋(うづめら)れて凍死(こゞえし)する㕝、まへにもいへるがごとし。此ふゞきは晴天(せいてん)にも俄(にはか)におこり、二日も三日も雪あれしてふゞきなる事あり、往来(ゆきゝ)もこれが為(ため)にとまること毎年なり。此時に臨(のぞん)で死亡(しばう)せしもの、雪あれのやむを待(まつ)も程(ほど)のあるものゆゑ、せんかたなく雪あれを犯(をかし)て棺(くわん)を出(いだ)す事あり。施主(せしゆ)はいかやうにもしのぶべきが他人(たのひと)の悃苦(こまる)事見るもきのどくなり、これ雪国に一ツの苦状(くぢやう)といふべし。我(われ)江戸に逗留(とうりう)せしころ、旅宿(りよしゆく)のちかきあたりに死亡ありて葬式(さうしき)の日大嵐(あらし)なるに、宿(やど)の主(あるじ)もこれに往(ゆく)とて雨具(あまぐ)きびしくなしながら、今日(けふ)の仏(ほとけ)はいかなる因果(いんくわ)ものぞや、かゝる嵐(あらし)に値(あひ)て人に難義(なんぎ)をかくるほどなればとても極楽(ごくらく)へはゆかるまじ、などつぶやきつゝ立いづるを見て、吾が国の雪吹(ふゞき)に比(くら)ぶればいと安しとおもへり。

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