九十五 餅花

北越雪譜 原文
原文現代語訳

餅花(もちはな)や夜(よる)は鼠(ねずみ)がよし野山(一にねずみが目にはとあり)とは其角がれいのはずみなり。江戸などの餅花は、十二月餅搗(もちつき)の時もちばなを作り歳徳の神棚へさゝぐるよし、俳諧(はいかい)の季(き)には冬とす。我国の餅花は春なり。正月十四日までを大(おほ)正月といひ、十五日より廿日までを小(こ)正月といふ、是我(わが)里俗の習(ならは)せなり。さて正月十三日十四日のうちに門松しめかざりを取り払ひ、(我国長岡あたりにては正月七日にかざりをとり、けづりかけを十四日までかくる)餅花を作り、大神宮歳徳の神夷(えびす)おの〳〵餅花一枝(えだ)づゝ神棚へさゝぐ。その作りやうはみづ木といふ木、あるひは川楊(かはやなぎ)の枝(えだ)をとり、これに餅を三角又は梅桜の花形に切たるをかの枝にさし、あるひは団子をもまじふ、これを蚕玉(まゆたま)といふ。稲穂(いなぼ)又は紙にて作りたる金銭、縮(ちゞみ)あきびとなどはちゞみのひな形を紙にて作り、農家(のうか)にては木をけづりて鍬鋤(すきくは)のたぐひ農具(のうぐ)を小さく作りてもちばなの枝にかくる。すべておのれ〳〵が家業(かげふ)にあづかるものゝひなかたを掛る、これその業(げふ)の福をいのるの祝事(しゆくじ)なり。もちばなを作るはおほかたわかきものゝ手業(てわざ)なり。祝(いは)ひとて男女ともうちまじりて声(こゑ)よく田植哥(たうゑうた)をうたふ、此こゑをきけば夏がこひしく、家の上こす雪のはやくきえよかしとおもふも雪国の人情なり。此餅花は俳諧の古き季寄(きよせ)にもいでたれば二百年来諸国にもあるは勿論(もちろん)なり。ちかごろ江戸には季(き)によらず小児の手遊に作りあきなふときゝつ。

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