二 おしどり

怪談 現代語訳
原文現代語訳

陸奥の国の田村の郷という所に、尊允という鷹匠で猟師の男が住んでいた。ある日、狩りに出かけたが、獲物が一つも見つからなかった。ところが帰り道、赤沼という所で、渡ろうとしていた川におしどりのつがいが仲よく泳いでいるのを見つけた。おしどりを殺すのはよくないことである。しかし尊允はたまたまひどく腹をすかせていたので、そのつがいを射た。矢は雄鳥を射抜き、雌鳥は向こう岸の葦の中へ逃げこんで姿を消した。尊允は死んだ鳥を家に持ち帰り、料理した。

その夜、尊允はわびしい夢を見た。美しい女が部屋に入ってきて枕もとに立ち、泣きはじめたように思われた。あまりに激しく泣くので、尊允は聞いているうちに胸が引き裂かれるような気がした。女は叫んだ。「なぜ――ああ、なぜあの人を殺したのです。あの人にどんな罪があったというのです……。赤沼でわたしたちは、あんなに幸せに暮らしていたのに――それをあなたは殺してしまった……。あの人があなたに何の害をしたというのです。自分が何をしたのか、わかっているのですか。ああ、どんなに残酷な、どんなにむごいことをしたのか、わかっているのですか……。わたしまで殺したのです。夫なしでは生きていけないのですから……。ただそれを言いたくて来たのです」……そう言うと、女はまた声をあげて泣いた。その泣き声があまりに悲痛なので、聞く者の骨の髄までしみとおるほどだった。そして女はむせび泣きながら、この歌を詠んだ。

日暮るれば
誘ひしものを
赤沼の
真菰がくれの
ひとり寝ぞ憂き
(日が暮れると、いつも一緒に帰ろうと誘ったのに。いまは赤沼の真菰の陰でひとり寝するのが、なんともつらい)

この歌を詠み終えると、女は叫んだ。「ああ、あなたにはわからない――自分が何をしたのか、わかるはずがない。でも明日、赤沼へ行けばわかります――わかります……」。そう言うと、ひどく哀れに泣きながら去っていった。

朝、目を覚ましても、尊允の心にはこの夢がありありと残っていて、たいそう気がふさいだ。「でも明日、赤沼へ行けばわかります――わかります」という言葉が思い出される。そこで、夢がただの夢にすぎないのかどうか確かめようと、すぐに赤沼へ行ってみることにした。

赤沼に行って川岸に着くと、雌のおしどりが一羽だけで泳いでいるのが見えた。同時に鳥も尊允に気づいた。ところが逃げようとするどころか、まっすぐ尊允のほうへ泳いできて、そのあいだじゅう、奇妙にじっと尊允を見つめていた。そして突然、くちばしで自分の体を引き裂いて、猟師の目の前で死んでしまった……。

尊允は頭を丸めて僧になった。

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