高野山の証空上人が京へのぼった時、細い道で馬に乗った女と行き会ったが、女の馬の口を引いていた男が引き方を誤って、上人の馬を堀へ落としてしまった。
上人はひどく腹を立ててとがめ、「これはとんでもない乱暴だ。仏の四部の弟子というのはだな、比丘よりは比丘尼は劣り、比丘尼より優婆塞は劣り、優婆塞より優婆夷は劣っている。このような優婆夷などの身で、比丘を堀に蹴り落とさせるとは、前代未聞の悪行だ」と言われたので、口取りの男は「何をおっしゃっているのやら、さっぱりわかりません」と言う。上人はなおもいきりたって、「何を言うか、修行も学問もない男め」と荒々しく言ったが、この上ない暴言を吐いてしまったと思った様子で、馬を引き返して逃げてしまわれた。尊い口げんかというべきだろう。