第48話物語抄訳

伊勢物語

第九段「東下り」(隅田川)

舞台 隅田川(東京都)
成立 10世紀 作者 作者未詳

原文名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと

現代語訳

なおも旅を続けて行くと、武蔵の国と下総の国との間に、たいそう大きな川がある。それを隅田川という。その川のほとりに集まって座って、都のことを思いやると、「果てしなく遠くまで来てしまったものだなあ」と互いに嘆き合っていると、渡し守が「早く舟に乗れ、日も暮れてしまう」と言うので、舟に乗って渡ろうとすると、一行の人々はみななんとなく悲しい。都に恋しく思う人がいないわけではないからである。

ちょうどそのとき、白い鳥で、くちばしと脚とが赤い、鴫ほどの大きさの鳥が、水の上で遊びながら魚を食べている。都では見かけない鳥なので、誰も知らない。渡し守に尋ねると、「これこそ都鳥だ」と言うのを聞いて、

「都という名を持っているならば、さあ尋ねよう、都鳥よ。私が恋しく思っている人は、無事でいるのかいないのかと」

と詠んだので、舟の人々はみな泣いてしまった。

都を捨てて東国へ下ってきた一行が、ついにたどり着いたのが、武蔵と下総の境を流れる隅田川であった。見知らぬ土地の大河を前に、都への思いがこみ上げてくる。そこへ、都という名を持つ鳥が現れた。その名に呼びかけて、都に残した人の安否を尋ねる。名前しか都とつながるものがない、という切なさが、一行の涙を誘ったのである。

都鳥は、今のユリカモメだと考えられている。隅田川に架かる言問橋や、言問通りといった地名は、この歌の「こと問はむ」に由来する。東京都の鳥もユリカモメである。千年以上前の歌が、今も東京の地名の中に生き続けている。

地点メモ:都鳥に「名にし負はばいざこと問はむ都鳥…」と問いかける。
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