第91話随筆抄訳

徒然草

第五十二段(石清水八幡宮)

舞台 石清水八幡宮(京都府)
成立 1330年頃 作者 兼好法師(吉田兼好)

原文極楽寺・高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りにけり。

現代語訳

石清水八幡宮は、京都の南、男山の山上に鎮座する神社である。貞観元年(八五九年)、奈良の大安寺の僧、行教が、九州の宇佐八幡宮で神託を受け、八幡神をこの地に勧請したのが始まりとされる。都の裏鬼門(南西)を守る神として、また皇室の祖先神として、伊勢神宮に次ぐ第二の宗廟と崇められた。源氏の氏神ともされ、源義家は、ここで元服したことから「八幡太郎」と名乗った。

男山のふもとには、極楽寺や高良神社などの寺社があり、参詣者はまずそれらを拝んでから、山道を登って山上の本殿に参るのが順序であった。

『徒然草』第五十二段に登場する仁和寺の法師は、ふもとの極楽寺や高良神社を本殿だと思い込んで拝み、「これで全部だ」と満足して帰ってしまった。周りの参詣者が山へ登っていくのを見て、何があるのだろうと気にはなったけれど、「神へ参るこそ本意なれ」と、わざわざ行かなかった。本当の目的地は、その山の上にあったのである。

兼好は、この話を、ただ笑い話として終わらせずに、「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」と結んでいる。どんな小さなことでも、その道に通じた案内者がいたほうがよい。自分一人の思い込みで判断することの危うさを、さりげなく教えている。

石清水八幡宮は、今もケーブルカーで山上に登ることができる。ふもとの高良神社のそばには、「徒然草」ゆかりの地を示す案内板も立っている。法師が見落とした山上の本殿は、平成二十八年に国宝に指定された。

地点メモ:「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」。山上の本宮を見逃した法師の話。
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