遠野の町は、南と北から来る川が合わさるところにある。昔は「七七十里(しちしちじゅうり)」といって、七つの谷の七十里奥から荷が集まり、市の日には馬千頭、人千人でにぎわった。
まわりの山々でいちばん高く美しいのが早池峰山で、北の附馬牛の奥にある。東には六角牛山がそびえる。石神山は附馬牛と達曾部のあいだにあり、前の二つよりは低い。
大昔、ひとりの女神が三人の娘を連れて、この高原にやって来た。
いまの来内村、伊豆権現の社のあたりに泊まった夜、母の神は言った。
「今夜いちばんよい夢を見た娘に、いちばんよい山をあげましょう」
夜ふけ、天から不思議な花が降ってきて、長女の胸の上にとまった。ところが末の娘が目を覚まし、そっとその花を取って、自分の胸にのせてしまった。
こうして末娘はいちばん美しい早池峰を、姉たちは六角牛と石神を手に入れた。三人の女神は、いまもそれぞれの山に住んで、山を治めている。
だから遠野の女たちは、女神にねたまれるのを恐れて、いまでもこれらの山には遊びに行かないという。
*ここでいう「里」は、一里が五、六町(六百メートルほど)の小さな里である。
*達曾部(タッソベ)もアイヌ語だろう。
*来内(ライナイ)もアイヌ語で、ライは死、ナイは沢。水が静かなことからついた名か。