夕暮れどきに外にいる女や子どもが神隠しにあうのは、よその土地と同じである。
松崎村の寒戸(さむと)というところの家で、若い娘が梨の木の下に草履を脱ぎ置いたまま、行方知れずになった。
三十年あまりたったある日、親類や知り合いがその家に集まっていると、ひどく年老いてやつれた女が帰ってきた。あの娘だった。
「どうして帰ってきたの」
「みんなに会いたくて。それじゃあ、また行きます」
そう言うと、女はまた跡形もなく消えてしまった。
その日は、風の激しく吹く日だった。だから遠野の人は今でも、風の騒がしい日には「きょうはサムトの婆が帰ってきそうな日だ」と言う。