泉質ガイド
環境省「鉱泉分析法指針」の分類基準と、公表されている泉質別の適応症をもとに、代表的な8つの泉質をまとめました。
「温泉」と「鉱泉」の違い
- 「温泉」は温泉法(1948年)が定める法律上の呼び方。源泉温度が25℃以上、または規定された成分(メタホウ酸・ラドン・硫黄など)のいずれかを一定量以上含んでいれば、水温にかかわらず「温泉」に該当する。
- 「鉱泉」は、鉱物成分を含む地下水を指すより古くからの一般的な呼び名。温泉法の制定以前から使われており、源泉温度の低い施設などで今も「〜鉱泉」の名称がそのまま使われ続けている。
- 「鉱泉」と名の付く施設の多くも実際には温泉法上の基準を満たしており、法律上は「温泉」に分類される。名称の違いは主に歴史的な経緯・慣習によるもので、両者は必ずしも排他的な区分ではない。
- このサイトでは、出典であるWikipedia記事の名称表記(「〜鉱泉」等)をそのまま尊重し、変更せずに掲載している。
単純温泉
- 定義
- 溶存物質(ガス性のものを除く)が1kgあたり1,000mg未満で、泉温25℃以上のもの。特定の成分が突出していないため「単純」と呼ばれるが、成分が薄いという意味ではない。pH8.5以上のものはアルカリ性単純温泉と呼ばれる。
- 特徴
- 無色透明でクセがなく、肌への刺激が少ない。とくにアルカリ性単純温泉は肌がすべすべした感触になる。
- 地質的背景
- 特定の成分に偏らないぶん地質による制約が少なく、全国の山間部・盆地など幅広い環境で湧出する。日本で最も湧出数の多い泉質とされる。
- 浴用適応症
- 自律神経不安定症、不眠症、うつ状態。
- 飲用適応症
- 特になし
塩化物泉
- 定義
- 溶存物質が1kgあたり1,000mg以上で、陰イオンの主成分が塩化物イオン(Cl⁻)のもの。海水に近い成分組成を持つ。
- 特徴
- なめると塩辛い。入浴すると皮膚表面に塩分の膜ができて汗の蒸発を抑えるため湯冷めしにくく、「熱の湯」とも呼ばれる。
- 地質的背景
- 海岸沿いの温泉に多いほか、内陸でも太古に海だった地層に閉じ込められた「化石海水」に由来するものがある(新潟県松之山温泉は約800〜1200万年前の化石海水由来とされる)。火山地帯ではマグマ由来の塩素が加わることもある。
- 浴用適応症
- 切り傷、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症。
- 飲用適応症
- 萎縮性胃炎、便秘。
炭酸水素塩泉
- 定義
- 溶存物質が1kgあたり1,000mg以上で、陰イオンの主成分が炭酸水素イオン(HCO3⁻)のもの。ナトリウムを主成分とするものは俗に「重曹泉」と呼ばれる。
- 特徴
- 湯上がりに肌がつるつる・すべすべになることから「美肌の湯」として知られる。石けんに似た清涼感のある肌ざわり。
- 地質的背景
- 地下水が石灰岩など炭酸塩を含む地層や、火山由来の二酸化炭素と反応して生成されることが多く、山間部・盆地の温泉でしばしば見られる。
- 浴用適応症
- 切り傷、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症。
- 飲用適応症
- 胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、耐糖能異常、高尿酸血症。
硫酸塩泉
- 定義
- 溶存物質が1kgあたり1,000mg以上で、陰イオンの主成分が硫酸イオン(SO4²⁻)のもの。
- 特徴
- 苦みを帯びた味が特徴。古くから「傷の湯」「中風の湯」とも呼ばれ、湯治に使われてきた。
- 地質的背景
- 火山活動に伴う硫黄分の酸化や、石膏(硫酸カルシウム)を含む地層との接触などで生成され、火山周辺や堆積岩地帯に多い。
- 浴用適応症
- 塩化物泉と同様、切り傷・末梢循環障害・冷え性・うつ状態・皮膚乾燥症。
- 飲用適応症
- 胆道系機能障害、高コレステロール血症、便秘。
硫黄泉
- 定義
- 総硫黄(硫化水素イオン・チオ硫酸イオン・遊離硫化水素の合計)が1kgあたり2mg以上のもの。遊離硫化水素を主とする「硫化水素型」と、それ以外の「硫黄型」に分かれる。
- 特徴
- 卵の腐ったようなにおい(硫化水素臭)が特徴で、いわゆる「温泉らしいにおい」の代表格。白濁・乳白色を帯びることが多く、銀製品を黒く変色させることもある。殺菌力が高い。
- 地質的背景
- マグマから放出される火山ガス(硫化水素・二酸化硫黄)が地下水に溶け込んで生じるため、火山地帯・火山フロント沿いにほぼ限られる。8種の中でもっとも「火山性」の強い泉質。
- 浴用適応症
- アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症。
- 飲用適応症
- 耐糖能異常(糖尿病)、高コレステロール血症。
注意: 刺激が強いため、皮膚が過敏な人や高齢者の皮膚乾燥症では注意が必要とされる。
二酸化炭素泉
- 定義
- 遊離二酸化炭素(CO2)を1kgあたり1,000mg以上含むもの。「炭酸泉」とも呼ばれる。
- 特徴
- 入浴すると全身に細かい炭酸の泡がまとわりつくのが特徴で「泡の湯」とも呼ばれる。飲用するとサイダーに似た清涼感がある。
- 地質的背景
- マグマ由来の二酸化炭素が地下水に溶け込んで生成される。湧出時の温度が低いことが多く(大分県長湯温泉など)、火山活動の余効が残る周縁部でよく見られる。
- 浴用適応症
- 切り傷、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症。低温でも炭酸ガスが末梢血管を拡張させるため「心臓の湯」とも呼ばれる。
- 飲用適応症
- 胃腸機能低下。
含鉄泉
- 定義
- 総鉄イオン(Fe2+・Fe3+の合計)が1kgあたり20mg以上のもの。
- 特徴
- 湧出直後は無色透明でも、空気に触れて鉄分が酸化することで赤褐色〜黄褐色に変色するのが特徴。渋みを帯びた味がする。
- 地質的背景
- 鉄分を含む岩石・地層を通った地下水に由来し、山間部の鉱山跡地周辺などで見られる。火山性・非火山性いずれの地質でも成立しうる。
- 浴用適応症
- 特になし
- 飲用適応症
- 鉄欠乏性貧血。
放射能泉
- 定義
- ラドン(Rn)を1kgあたり30×10⁻¹⁰キュリー(約111ベクレル、8.25マッヘ単位)以上含むもの。
- 特徴
- 無色無臭でほかの泉質とほぼ見分けがつかないが、微量の放射性気体ラドンを含む点が特徴。
- 地質的背景
- ウランを微量に含む花崗岩などが風化・崩壊する過程で発生するラドンガスが地下水に溶け込むため、花崗岩質の山地に多い(鳥取県三朝温泉、山梨県増富温泉など)。
- 浴用適応症
- 高尿酸血症、関節リウマチ、強直性脊椎炎。
- 飲用適応症
- 特になし
分類基準(定義)は環境省「鉱泉分析法指針」(平成26年改訂)による。泉質別の適応症は同指針にもとづき環境省が公表した「禁忌症及び入浴又は飲用上の注意事項」(2014年通知)の内容を、東邦微生物病研究所の解説記事で確認した。感覚的特徴は日本温泉協会の解説を、地質的背景は各温泉地の公式サイト等および一般的な地球科学的知見を参照した。医学的な内容を自己判断で治療に用いず、持病がある場合は医師に相談してください。
環境省 鉱泉分析法指針(平成26年改訂)「鉱泉の定義と分類」 ・ 泉質別適応症の解説 - 東邦微生物病研究所 ・ 温泉の泉質のいろいろ - 日本温泉協会 ・ 塩化物泉と化石海水 - 大鹿村中央構造線博物館 ・ 硫黄泉 - Wikipedia ・ 含鉄泉 - Wikipedia